YOSHIO靴工房 久家 明子さん(島根県出雲市平田町)【#連載66】
(取材・文章 tm-21.com)
【今回の元気企業】
YOSHIO靴工房
店主 久家 明子(くやあきこ)さん
◇工房
〒691-0023 島根県出雲市唐川町263 荒木方
※工房への直通電話はありません。
◇連絡先住所
〒691-0001 島根県出雲市平田町1319-15
TEL/FAX 0853-62-2417
メール shoes@kuyacchi.com
※ ↑メールは半角に直してください。
HP http://www.kuyacchi.com/
生活バスの終点 唐川の工房
平田の唐川で靴を作っている職人さんがいるよと聞いたのは、9月の終わりごろだった。紹介していただき電話をすると、若い女性の声だった。
靴職人というイメージから、てっきり男性だとばかり思っていた。
11月始め、紅葉の名所鰐淵寺をめざして出かけた。鰐淵小学校の前を左折すると鰐淵寺、まっすぐ清流沿いに山道を登っていくと、唐川へ行くらしい。
山の木々も色づき始め、黄色にところどころ赤が混じって、きれいだった。
ほとんど人家もなく、次第にこれでよいのかと、不安になってきた。
くねくね道がずっと続いて「あれー」と思っていると、小さな集落にたどり着いた。
そこには、生活バス終点唐川車庫とかかれた小屋があった。
ケヤキの大木が紅葉し、落ち葉が美しい、山に囲まれた集落は、石州赤がわらの家並みが、山の斜面に紅葉と美しく対比している。
ああー、日本の原風景だなと見とれた。
すぐそばに、工房の看板が見えた、「YOHIO靴工房」 ??????。
久家明子さん
工房のミシンやグラインダーなどの機械といろいろな足型
ガラス戸をあけて声をかけると、色白の小柄なお嬢さんがいた。久家明子(くやあきこ)さん。意志の強そうな目が印象的だ。
工房は親戚が廃業した製茶工場のあと、がらんとしたコンクリートの土間に、ミシンやグラインダーなどの機械が置いてあった。
新聞紙の上に足型が並べてあり、やはり、靴職人さんだと納得した。
平田の街中、久家靴店の次女として生まれた。その昔、祖父は靴職人として、軍隊の靴製造を手がけ、職人として働いた。明子さんが物心ついた頃は、祖父と母が小売店を経営していた。祖父は靴修理もやっていたようだ。
父は靴職人の大変さを嫌い、サラリーマンとなった。孫娘が祖父のあとを継ぎ靴職人を目指す。
NHK朝の連続ドラマの展開だ。この話、このままドラマになりそうだ。
島根女子短大を卒業後、金融関係に就職するが、どうやらあわなかったようだ。
島根の山の中の保育園で保育士となった。
山の保育園児ははだしで走り回っていた。保育園での体験はその後の靴職人へとつながっていく。
保育園のあと、しばらく医療事務の仕事を続けていた。
両親は医療事務の仕事も続き、後は結婚、孫の顔と考えていたようだ。
祖父は92歳で他界し、久家靴店は営業しているものの、母がスリッパや農業用の靴を細々と商いしていた。
知人から祖父の話を聞いた。
「あなたのおじいさんに作ってもらった靴を20年も履いたよ」
この話に、久家さんは鳥肌がたったという。
おじいさんが作り修理をし、大切に20年もはき続ける。
人の手で作ったものをが、人に大切に永く愛される。
そんな仕事があるなら、私もしてみたい。知人の言葉に、感動した。
親の反対を押し切り、1年間の約束で上京した。30歳だった。
YOSHIO靴工房
足型にはめ、制作中の靴
靴職人になろうと思った頃、TVや雑誌で靴職人のことがよく紹介されていた。オレンジページで見た学校に入った。そこは、プラモデル的な靴作りを教えるところ、皮底の靴作りを教えてくれるところを探した。
靴の自在工房hiro で靴作りの基礎を教えてもらった。
1年半後、練馬の7畳のアパートに、ミシンやグラインダーなどの機械を入れて、独立した。「YOSHIO靴工房」のスタート。
「YOHIO」もうお分かりですね、祖父の名前なのです。
しかし、機械は唐川の工房においてあるもの、かなりな大きさ。7畳の部屋では、お客様の対応すら、大変だったことだろう。まして、寝るのはどうしていたのだろうか。
本人曰く「なんとかサテイアン状態でしたよ」
まずは、靴修理のチラシを配って歩いた。
口コミで、修理の仕事が来るようになった。そのうち、お客様から、靴を作ってよとの依頼がきた。
「手作りベビーシューズ」をインターネットに立ち上げた。
ベビーシューズには、久家さんの思い入れがあった。山の保育園の子供たち、はだしで遊んでいた。土のない町では「はだし」では歩けない、靴が必要だ。出来るだけ「はだし」に近い状態の靴を作りたい。
子供たちが、最初にはく靴「ベビーシューズ」プレゼント用にと反響があった。
ベビーシューズの注文は、次から次へと入ってきた。
靴作りのワークショップを開いた。
近くの公共施設をかりて、最初は3人、そして4人、5人次は参加者が15人となった。
対応できなくなった。
東京生活も4年、7畳の工房の窮屈さ、自然が恋しいと思うようになった。
靴工房は順調だったが、何か満足できない思いを抱いていた。
ふるさとへ
できあがった靴。素敵な商品の詳細はホームページでご覧下さい。
HP http://www.kuyacchi.com/
焼き物の里 益子へ出かけた。
「焼き物職人が集まって働いていて、何度かいくうちに、一生おつきあいできる人にもであったんです。こんなところで仕事をしたい。人との出会いを大切にしながら、丁寧に靴を作りたいと思いました。」
益子の人たちも、ここに移ってきたらと、勧めてくれた。
半分その気になっていった。しかし、ふと気がついたふるさとへ帰ろうと。
帰郷する前にすることがあった。
「個展」を開こうと思って、ギャラリーを探してあるいた。
高円寺にあるギャラリーで、2008年5月個展を開くことになった。
久家さん、目を輝かせて話した。
「ギャラリーに行ったとき、1冊の本がおいてあったんです。なんと、石見銀山の大森にある「群言堂」のことを書いた本だったんです。」
「これは、ふるさとに帰れといわれていると思いました」
唐川の製茶工場を借りることは、すぐに決まった。
2007年7月、久家さんはふるさとに帰ってきた。
靴作りワークショップ
靴作りワークショップの案内チラシと制作するルームシューズ。ワークショップの詳細はHPで確認ください。
HP http://www.kuyacchi.com/workshop1.html
11月23日(金 )24日(土) 25日(日)3連休に、唐川の工房で靴作りワークショップが開かれる。
10時から5時まで、お弁当持参でルームシューズを作る。
詳しくはホームページを見てほしい。
HP http://www.kuyacchi.com/workshop1.html
やわらかい皮を太い糸で縫ってあった。ほっとする感触、しかも自分で作ったものなら、大切にはき続けることだろう。ぜひ、チャレンジしてほしい。
久家さんは、出来るだけ地元のものを使って、オリジナルなものを作りたいという。
たとえば、皮を柿渋で染めた靴(とっても温かみのある、素敵な茶色)、底皮の中には、唐川のおじいさんか焼いた竹炭が入っている。
靴には、土踏まずに合わせた、カーブがついているが、これは金具が入っている。
この金具を竹で作る、軽くて丈夫なのだそうだ。
さき織を使って、靴を作ってみたい。
北山にたくさん生息している、鹿皮をなめして使ってみたい。
などなど、夢や思いは尽きない。
ふと思った。この山の中に、お客さん来てくれるだろうか。
インターネット時代は東京でなくても、情報発信が出来る。すばらしいことだ。
今も、ベビーシューズの注文はやって来る。一人で制作する久家さん、ベビーシューズで3日、大人の靴は1週間から10日かかるという。
ベビーシューズは、サイズとデザインだけで、納品が出来るが、大人の靴はどうするのかと思った。
見本品を用意して、多少のデザイン変化と色を選んで、作るそうだ。
足の木型も、見本品があり、その型に修正を加え制作する。いわば、セミオーダーかな。
「一度でぴったりとはいかないんですよ。何度か修正を加えて、完成します。」
シンプルではきやすい靴を作りたいと話していた。
余談ですが。。。。
久家さんの取材を知人に話したところ、自分の父が久家靴店で作ってもらっていたと聞いた。おじいさんが靴作りをやめて、既製品を買って履いたが合わなくて、困っていたらしい。
確かに、ぴったり合う靴を見つけることは難しい。
田舎町では、スニーカーや今風の靴はあるが、大人のためのはきやすくて、大切にしたい靴は少ない。ニーズはあるのではないか。
- オーダーとなると、高価なものではないか。
- 採寸や注文に時間がかかって、めんどくさい。
- 修理をして、大切にはき続けるという価値観が合わないのではないか。
などなど、この島根県の田舎での靴作りの問題点を話してみた。
「インターネットと価値を認めてくれるお客様との出会いを大切にしていきます。」
明快に答えてくれた。
わたくし、田舎町第1号のお客様になりそうです。
好きなものを、大事に使い続ける、そんな価値観が気に入ってます。ちなみに、今使っているバッグも、15年になります。一度、修理に出しました。
最後に、結婚は?と聞いてみた。
「靴と出会ってしまいました。今のところ、これ以上の出会いがないと、結婚は考えられません。」
「靴をとうして、いろいろな方と、良い出会いがいっぱいあって、寂しいなんて思わないんですよ。」
意志の強そうな目は、キラキラしています。
5月東京高円寺での個展を終えて、唐川での本格的な工房経営が始まるようだ。
唐川工房は携帯が入りにくく、連絡は普通の電話かメールで、どうぞ。
工房の裏山の奥には、知る人ぞ知る「韓亀(かんかめ)神社」があり、訪れる人もあるそうだ。「唐川」「韓亀」、地名からこの地の韓国との繋がりを感じるのは、私だけではないだろう。紅葉の季節、どんなところかのぞいてみてはどうだろう。
今回掲載の元気企業データ
YOSHIO靴工房
法人名 | YOSHIO靴工房 |
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工房 | 〒691-0023 島根県出雲市唐川町263 荒木方 ※工房への直通電話はありません。 |
連絡先 | 〒691-0001 島根県出雲市平田町1319-15 |
HP | http://www.kuyacchi.com/ ※ ネット通販もあります。 |
メール | shoes@kuyacchi.com ※ ↑メールは半角に直してください。 |
連絡 | TEL/FAX 0853-62-2417 |
平成19年11月6日取材