有限会社ヴァンダンジュ(島根県松江市)【連載38】

地元も生産者も消費者も喜ぶ「コミュニティ・ワイナリー」
松江市岡本町ですくすく成長中!

【今回の元気企業】
有限会社ヴァンダンジュ 社長 石橋 広光さん
ホームページ:http://www.vendange.jp/

 松江市岡本町で、「夢のワイン畑」が育っています。

 —夢って、どんな夢なの?—  

よくぞ聞いてくれました!世界に1本しかないワインを自分の手で作れる場所、普段は立ち入れないぶどうの育成に消費者自身が関われる場所、地域を元気にすることができる場所etc…。

そう、まさに「みんなの夢をかなえるワイン畑」なのです。畑を経営する会社は、(有)ヴァンダンジュ。フランス語で「収穫」という意味です。

代表取締役の石橋広光さんに話を聞いてみました。 ;

(取材・文章 高野 朋美)

夢のコミュニティワイナリー

建設予定地

岡本町の畑は、ちょうど山の南側斜面にあり、西風の影響を受けにくい地域。ここはワイン用ぶどうに適した場所だと石橋さん。

「雨の多い山陰はワイン用ぶどうに適さないって言われますが、ピンポイントで見ると、気候のよい場所はあるんです。土壌づくりも工夫次第。要は、やる気なんです」。

松江市の山腹、岡本町にあるぶどう畑。今年5月に植えた苗はいま、すくすくと育っている。雨の多い山陰でワイン用ぶどうは作りづらい、という定説を覆すかのように、若いぶどうの木は、3年後の収穫に向かって成長を続けている。

ワインの本場ではない日本にも、いくつもワイナリーがある。島根県にも老舗の「島根ワイナリー」が存在する。しかし(有)ヴァンダンジュが目指すワインづくりは、これらとは少し違う。 

ヴァンダンジュは、生産者と消費者が、いっしょになってワインを造り上げていく、というスタンスのもと、まず消費者に会費を払って会員になってもらい、それを事業の資金にあてる。ワインの原料であるぶどうは農家、それをワインに仕込むのは醸造メーカー、というのが普通だが、ヴァンダンジュでは、苗の植え付けや収穫はもちろん、ワイン醸造にまで会員が参加することができる。

一言でいえば「参加型ワインづくり」だ。もちろん、生産には参加しないが会費だけ払う、というパターンもあり。そうして出来上がったワインは、1年に1本、無料で会員全員にプレゼントされる。 

よくある「ぶどうの木・オーナー制度」のようだが、(有)ヴァンダンジュのそれは、ぶどうの木ではなく「ワイン事業そのもの」のオーナーになる、という点が大きな特徴だ。 

だから、生産者主導ではなく、どちらかといえば消費者主導。会員は、農家といっしょに自らが関わったぶどうで、自分のつくりたいワインを造ることができる。世界にひとつしかない「プライベートワイン」を作ることができる上、農業体験や醸造への参加を通して、地域の人たちとふれあえたり、食や環境を考える「スローフード」が実践できるのだ。石橋さんはこの事業を「コミュニティ・ワイナリー」と名付けている。 

事業は今年始まったばかりで、本格的になってくるのは来年以降。しかし、未来に開かれた夢に、現在350人が賛同し、ヴァンダンジュの会員になっている。

造りたいワインを作る「むずかしさ」

ブドウ7月

岡本町に育っているのは、メルローという赤ワイン用のぶどうです。植えて1年未満の木に果実はならないはずなのに、この7月、偶然にも、数本の木に小さな実がなりました。を作ったカップル。披露宴でふるまわれたワインは、列席者の感動を呼んだそうです。

「そもそも、なぜ石橋さんはこのような事業をやろうと思ったのか。 

バイオ研究者だった石橋さんは15年前、島根ワイナリーに技術者として着任。「もっといいワインを造りたい」という思いから、当時東京にあった国税庁醸造試験所で1年学んだ。

「本物のワインとは何たるかと、ワインの味わいと生産・醸造の関係を勉強しました」。 

島根ワイナリーに戻った石橋さんは「すべてを変えてやろう」と思った。当時の島根ワイナリーには、どんなワインをお客様に提供するかという「コンセプト」が欠けていたという。

「有志の若手が集まり、コンセプトを考えました。で、造ろうと思ったのが、好きな女性に飲ませたいワイン(笑)」 そうして生まれたのが「ディオ・ブラン」というワインだ。口当たりのよい甘口ワインは、7000本を1ヶ月で売り切るという、島根ワイナリー始まって以来の快挙を成し遂げた。 

手応えを感じた石橋さんらは、今度は辛口の本格ワインを造ろうと実験を始めた。しかし、造りたいワインを造る作業には、さまざまな困難が立ちはだかった。

「ワインの味を変えるためには、ぶどうの作り方から変えなくてはならないんです。でも、生産者である農家は、いままで通りの作り方を変えたがらないもの。それを説得するのは、非常に大変なことでした」。

自分でやるしかない!

プライベートワイン

(有)ヴァンダンジュではテスト的に、プライベートワインづくりを実施しています。写真は、結婚式のためにプライベートワインを作ったカップル。披露宴でふるまわれたワインは、列席者の感動を呼んだそうです。

折しも、島根県が第一回「起業家スクール」を開講。自分がやりたいワインづくりを実現するには、自分でやるしかない、と感じ始めていた石橋さんは、スクールでヴァンダンジュの骨格を整えていった。 

そして平成16年4月、(有)ヴァンダンジュを創立。平成17年には第一回のぶどうの植え付けも行われた。夢が具体的に動き出した。 

ここで、ひとつだけ疑問がわいてきた。ワインツーリズムは、都市部の人にはすんなり受け入れられる仕組みだろう。しかし、新しいことに尻込みしがちな山陰人が、とりわけ「農家」が、ヴァンダンジュの考え方に快く賛同したのだろうか。

「実は岡本町のほかに、候補地はいくつかありました。でも、やろうと腰を上げてくれたのは岡本町の農家。タバコの葉を作っていた地域ですが、禁煙気運の中で、これから衰退するだろうタバコ産業にぶら下がるより、ワインツーリズムという夢のある事業をやろうや、という呼びかけに答えてくれました」。 

では、事業の核となる「会員」は順調に増えているのだろうか。

「口こみやインターネットで会員が増えています。広島、東京の人が多いですね」。 むしろ、会員は県外者でもかまわない。1つの目的を共有することで、地縁を超えたつながりを模索できる。 

生産者、消費者、地元それぞれに利があるコミュニティ・ワイナリー。石橋さんは、会員数の当面の目標を2000人、と定めている。これだけ集まれば、事業を円滑に運営できるのだ。  

来年春、(有)ヴァンダンジュでは、会員といっしょに、新たに4000本のぶどうの木を植える。そして岡本町のある山の頂きには、ワイナリーの工場ができる予定だ。 同町でできたぶどうでワインを造る日まで、あと3年。大きな夢をいっぱいに抱え込み、宍道湖をのぞむ夢のぶどう畑は、生産者と会員に見守られながら、じわじわと大きくなっている。

今回掲載した企業 データ

社名
松江葡萄酒工房 [有限会社ヴァンダンジュ]
代表者
石橋 広光 社長
住所
島根県松江市東生馬町38-237
TEL
TEL/FAX 0852-36-5095
メール
info@vendange.jp
URL
http://www.vendange.jp/

 

 

 

2005年10月取材

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