「アトリエ・ナベ」 渡部正さん・正太さん(出雲市)【#連載83】

「現在・過去・未来 あなたの想いをつなぐ」時計宝飾品の修理・リフォーム専門店「アトリエ・ナベ」に 渡部正さん・正太さん親子を訪ねた。

(取材・文章 tm-21.com)

「アトリエ・ナベ」(atelie NABE)店主・渡部 正さん 

【今回の元気人】 
時計宝飾品の修理・リフォーム専門店
「アトリエ・ナベ」(atelier NABE)
店主・渡部 正さん 正太さん親子
〒693-0024 島根県出雲市塩冶神前6-5-10
TEL・FAX 0853-24-3539

 オヤジさん

アトリエ・ナベは、出雲工業高校の前にあった。入り口には、作業台の前にどっかと座った、オヤジさん。その奥の丸いテーブルに正太さん、それでいっぱいの小さなお店。

窓際には、古い掛け時計や置時計が沢山置いてあった。私にはとっても懐かしいものばかり、我が家にもあったなあとね。

棚の中には、古いカメラに腕時計が陳列してある。
これ全部修理するのですか。そうだよ。
懐かしいですね。この丸い形の置時計、実家に今もありますよ。日の出型といいます。
しばらく、見とれていた。

どっかと座ったオヤジさん、大きな声で教えてくれた。
修理するときは、部品から作りだす。古いものは部品も、もうなくなっているからね。

渡部 正さん、オヤジさんは1歳のとき小児麻痺をわずらい、足が不自由だ。入退院を繰り返し、中学卒業は20歳になっていた。

機械イジリが大好きで、自転車・バイクの修理をしたかったが、足が悪いため、重たいものはダメ、それで時計修理の道に入ったそうだ。

昭和44年、当時は徒弟制度の時代、3年間住み込みで時計店にはいり、技術を磨いた。こつこつと、時計修理を学んでいった。時代は変わり、カシオが1980円の時計を売り出した、一気に使い捨ての時代へと移っていった。

昔は、2年に1回くらいは、分解修理を依頼し、大切に使っていたものだった。親から子へと時計は受け継いでいくものだった。

時計修理は仕事がどんどん減っていった、時代はバブルへと突入し、時計修理から宝飾の道へ転職することになった。
手ごろな値段の宝飾品が飛ぶように売れたという。

「アトリエ・ナベ」(atelie NABE)渡部 正太さん

ジュエリー製作とリフォームを目指す
渡部 正太さん(昭和53年生まれ)

それから、2006年まで宝飾店で働き、家族を養った。
「宝飾店では、良くしてもらったよ。でもね、やっぱり時計修理がやりたかった」

2006年11月、アトリエ・ナベをオープンした。
このとき、息子正太さんに一緒にやろうと声をかけた。
正太さん(S53年生れ)30歳。
当時農協に勤めるサラリーマン。オヤジさんに一緒にやろうと、声をかけられたことが、うれしかったという。自分は、手作りアクセサリーをやりたいという。

お父さんから、教えてもらうのは抵抗ないですか?
そんなことないですよ。

時計修理は見ていればわかるよ。部品の数も少ないし、取り出して元に戻すだけ。
簡単にいうオヤジさん。

オヤジさんは、古いものには、人の想いが詰まっている、その想いを一緒に修理したいと話す。そんなオヤジさんの仕事に、高校生の正太さんは「素敵な仕事」との想いがずっとあったそうだ。

素敵な親子の絆ですね。

古時計

ところ狭しと様々な機械工具が並ぶ作業場

ところ狭しと様々な機械工具が並ぶ作業場

一番古いものは、いつ頃のものを修理しました?
明治時代のものだそうだ。
明治時代、時計はとっても貴重品、旧家にしかなかったもの、たとえば代々お医者様の家にあった、大理石の時計とか、修理したそうだ。

この山陰は、あまり豊かではなかったようで、江戸時代・明治時代の時計は少ないようだ。持ち込まれるものは、大正・昭和初期のものが中心だそうだ。

こんなエピソードも教えてくれた。

農家から、その昔おじいさんとおばあさんの時代に、養蚕業で優秀な農家ということで表彰してもらったとき、いただいた賞品の時計が、物置から見つかった。

おじいさんとおばあさんは今もお元気、もう一度この時計の音が聞きたいといった。

この時計が、オヤジさんのところへ届いた。
修理には3週間ほどかかった。
修理に2週間、ちゃんと動くか見極めに1週間。

オヤジさんは、このおじいさんとおばあさんの想いにこたえたかったと話してくれた。

ところで、修理3週間で修理代はいくらですか?
笑いながら、8,000円だったかなあ。ええー、安くないですか?

うん、おじいさんとおばあさんの話を聞いてしまうと、もらえないよ。
それじゃ、儲けが、あまりないですよね。

うんうん、店もこんな小さいし、いい車に乗ろうとも思わないし、食べていければいいんだよ。それより、喜んでもらえるほうが、うれしいよ。

正太さん、にこにこ笑っている。

渡部 正太さん

修理を待つカメラ、時計、その他店内一杯!!

修理を待つカメラ、時計、その他店内一杯!!

正太さんの目指すのは、ジュエリー製作とリフォーム。オリジナルジュエリーを作って販売することを目指している。

アトリエ・ナベを紹介してくれたのは、正太さんの友人だ。
正太さんはこの友人の結婚指輪を製作した。

結婚指輪の裏に彫る、名前や日付など本人達と一緒に、ただひとつの自分達の作品を作り上げた。

面白いものを見せてもらった。
男性用のごついシルバーの指輪だ、まだ製作途中だが、薄紫のアメジストの小さな石がちょこんと乗せてあった。

これは、ネクタイピンからはずした石、シルバーは小さな置物だったものを、溶かして指輪に加工したもの。

材料はすべて自宅から持ってきたもの、それを加工して指輪に作り変えていく。
面白いでしょう。

私も、頭の中で考えた。ペンダントトップの石を指輪に作りかえようかなあ。
指輪の台は、インド土産のシルバーのブレスレット、これも使わなくなって黒く変色しているなあ。いろいろ、思いついてしまった。

おばあちゃんやおかあさんの指輪、帯止め、ブローチ。いろいろありますよね。自分の気に入ったように作り変えて、大事に伝えていく。
これも、人から人へ想いを伝えることだろう。

ちなみに、正太さんの腕時計シンプルな古いものをつけていた。見せてもらったら、オメガの古い時計、シンプルで薄くてクールな感じがとっても素敵だった。黒い皮ベルトが品の良いもの、カジュアルなというより、ジーパンとTシャツ、いまどきの若者スタイルの正太さんを引き締めていた。

アトリエ・ナベ

渡部さんの手で蘇った置き時計の数々

渡部さんの手で蘇った置き時計の数々

このお店、ほんとに小さなお店だ。

夕時になると、毎日数人の人たちが立ち寄り、店は混雑するという。コーヒーを入れる正太さん、大変なのだそうだ。

私が帰ろうとする頃、おじさんがやってきた。
椅子に腰掛け、用事は無いんだけどね。とくつろいだ様子。
なんだろう、この店は。

オヤジさんの人柄なのだろう。

チラシもCMも一切なし。
宣伝広告などまったくやらない。ただただ、口コミのみ。
古いものを修理専門でやってくれるところは少ない。今や、時計職人さんは時計店からいなくなろうとしている。

口コミで県内各地から、修理依頼があるという。
時代はまた古いものを大切に、和モダンブームなどなど、変わりつつある。
オヤジさん面白いことを言った。

今の時代、大多数の人たちがこだわりを持っていないのでは無いか。
自分の考えに自信が持てないのではないだろうか。
売るほうも買うほうも、もっと本気にならなくてはいけない。

「こだわり」この言葉大好きです
もちろん、独りよがりかもしれないし、受け入られにくいかもしれない。
しかし、自分が本気で思うことなら、素敵なこと、そう思いませんか。

名刺には、「現在・過去・未来 あなたの想いをつなぐ」 atelier NABE
と書いてある。

あなたにも、大切な想いありませんか?

時計宝飾品の修理・リフォーム専門店
「アトリエ・ナベ」(atelier NABE)
〒693-0024 島根県出雲市塩冶神前6-5-10
TEL・FAX 0853-24-3539

平成20年6月23日取材

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