【連載#32】蛙男商会 (かえるおとこ しょうかい)さん

島根からブロードバンドコンテンツを発信する蛙男商会。ネット上で巨大メディアを立ち上げたい

パソコンを使って制作作業に励む蛙男商会

【今回の元気人】 近くのスーパーで 8 万円で購入した 4 年落ちのパソコンを使って制作作業に励む蛙男商会。「最新鋭の機械がなくてもできるんです!」。蛙男商会は正体不明の映像作家なので、顔をお見せできないのが残念

蛙男(かえるおとこ)商会って何? 
一体、どんな仕事をしているところ? 
そもそも蛙男って? 
カエルに似た人とか…。

頭の中にたくさんの???を抱え、向かった先は柿畑に囲まれた一軒家。出迎えてくれたのは2匹の犬と、帽子をかぶった優しげな風貌の男性(この人が蛙男?カエルに似てないなぁ)。 

(取材・文章 tm-21.com)

謎に包まれた蛙男商会の正体は?

 

蛙男商会プロフィール
<主な制作作品>
▽ アニメーション
「菅井君と家族石」「雨が嫌いな男の話」
▽ ドラマ
「最後の卒業式」(島根県・頓原小学校記録映画)
▽ WEBコンテンツ・アニメ制作
「十六島海苔」(海産物松村)
▽ テレビCM
「アクィール~碧の迎賓館~」他
▼ URL
http://www.dongly.jp/

さっそく聞いてみました。蛙男って?

 「フロッグマンと呼ばれたクラレンスヘンリーが好きだから。スネークマンショーを 尊敬していて、蛇 には絶対勝てないという 気持ちも込めて 。昔、親父が商売している時の商標が蛙。それに、フロッグマンは水中工作員という意味があり、僕は10年以上映像の現場スタッフとして水面下で活動していた」。そんな理由から“蛙”。そして漢字4文字で誰でも読め、インパクトのある名前ということで“蛙男商会”が生まれたという。

差し出された名刺には、蛙男商会の文字とロゴの蛙男が描かれているだけ。何の仕事をやっているのか、本名すら記されていない。「山陰の企業の人はこの名刺を見て、『何だこれは―』といぶかしげに眉をひそめますよ。若い人には好評なんですが…(笑)」

 蛙男商会は正体不明の映像作家(とはいえ、かなりバレバレらしい)。もともと映像業界で映画やドラマの制作をやっていて、2年前に東京から島根に移住。インターネットを活用し、蛙男商会の名義でWEBコンテンツ、アニメーション、PV、CM制作などをやっている。無論、作り手は一人。

アニメ「菅井君と家族石」がサイト上で大賑わい

柿畑の中に建つ一軒家から全国へ情報発信

柿畑の中に建つ一軒家から全国へ情報発信。アニメーション「菅井君と家族石」の舞台にもなっている

蛙男商会の輪郭が少しずつ明らかになると、実はネットの世界でかなり有名であることが分かった。

今年2月に制作したアニメーション「菅井君と家族石」が雑誌や掲示板等で評判になり、7、8月には1日4万件ヒットする有名サイトに。つまり、人目に触れるというレベルで考えると、全国発行の月刊誌に匹敵するほど。サイト上に貼り付けられた広告のヒット数もうなぎのぼりで、広告自体も掲示板で話題になっているらしい。

この「菅井君と家族石」は、島根県出雲地方に暮らす極貧黒人ファミリー菅井家の日常を描いたコメディアニメ。場違いな場所に、場違いな人間がいることの厳しさを切々と謳いあげ、現在7話まで制作。もちろんストーリー、絵、声すべてを蛙男商会が手掛ける唯一無二の存在で、そのストーリーの面白さ、個性派揃いの登場人物が口コミ(とはいわないかも)で広まったという。

蛙男商会が挑むメディアへのテロリズム

蛙男商会さんのホームページ『dongly software』

7、8月には1日4万件ヒットした、蛙男商会さんのホームページ『dongly software』

島根から、オリジナルのエンターテイメントコンテンツを発信。その挑戦には蛙男商会の熱い思いが渦巻いている。

蛙男商会は生まれも育ちも東京。では何故、島根に住んでいるのか。豊かな自然が気に入ったから? のんびり暮らしたいから? いいえ、その目的は「メディアへのテロリズム!」と大胆発言。

「映像業界で痛感したことは、映像に従事するスタッフの労働環境があまりにもひどすぎるということだった。夢を抱いて東京に来て、一生懸命働いても月に10万円しかもらえないなんてザラ。厳しい生活ゆえに、夢をあきらめざるを得ない現実がそこにはある。その中に将来有望な若者もいたかもしれないのに。そんな映画やテレビ業界のピラミッド構造を何とか打破したい」

そのためにはどうすればいいか。「一日100万人ヒットする巨大メディアを、地方からネット上で立ち上げたらどうなるか」。それを今、島根で実験しているのだという。

映像や音楽をネットを通じて作り手が直接配信し、100万人ヒットすれば、 それはすでにテレビに継ぐ 巨大メディアである。そこに広告を出せば、安上がりで効果的。話題性も十分。やる気とセンスがあれば、地方に住んでいても知的財産ビジネスとして成り立つわけだ。

「決して“ネット=マイナー”ではない。ネットは双方向が可能。物流もできる。映像や音声をダイレクトにつなげる。文字媒体もできる。こんな優秀なメディアはない。インターネットは有名になるためのプレステージなんて認識だから、日本はいつまでもインターネットがビジネスにつながらない」。蛙男商会は絵に描いたもちを、つきたてのもちに具体化していったのだ。

「 有名タレント を使わなくても、ストーリーのある面白い映像であれば、視聴者を十分獲得できることを蛙男商会が実証した。うちのアニメは技術的にはレベルが低いが、これだけ若い人に支持されているのは、僕が映像の人間だから。何といってもストーリーが書けるのが強み。メディアからほど遠い島根でこういうことができれば、大分でも長崎でも、青森でも北海道でもどこでもできるよね。それができたら、末端で苦しんでいる才能のある若いスタッフが救われる。『ギャラが安ければやらないよ。ネットで作品を発表するから』と言える時代がくるんですよ」

2、3年後の島根に期待してほしい

映像業界の構造改革の扉は開かれたばかり。

「今、 島根の有志を集めて映像製作を学んでいます。 ゆくゆくは面白い映像を自由に作らせ、サイトを通じて発信する計画です。今年暮れから来年にかけて、いくつかの授賞式に出る予定で、その場で『2、3年後の島根を見てください。すごいことになりますから』と宣伝するつもり。『島根県はすごいなぁ』『映像といえば東京、大阪、島根だよね』。そうなれば面白いですよ」

近い将来、島根が映像業界をひっぱる時代がくるかもしれない。

アニメ「菅井君と家族石」のDVDリリース決定!!

9月には同じ映像制作仲間が運営する「ドングリソフト」にマネジメントを託し、蛙男商会はドングリソフトの映像ブランドに。“趣味”のサイトから、いよいよビジネスとして動き出した。地方発信の個人制作映像ソフトが、全国相手にビジネスとして成り立つことを知らしめるための挑戦だ。

遂に「菅井君と家族石」のオリジナルDVDリリースも決まった。

 ○12月下旬リリース

2004年11月取材