雑貨 チャリチャリ(出雲市)【連載#31】
【今回の元気企業】 出雲の街角にある雑貨店「チャリチャリ」。解放感のある店内に、かわいくて思わず手に取ってみたくなる雑貨が散りばめられています。
少しのお金で、ちょっとだけ幸せになりたいって時に、私は雑貨屋さんへ行きます。千円札が一枚あれば、「わぁ、かわいい」「台所に置くと、料理が楽しくなるぞ」といった雑貨が買えるから。
日常のささやかな幸せ=雑貨。こんな雑貨たちをこよなく愛する人がやっている店、それが「チャリチャリ」です。店主でもあり、ギフトコーディネーターでもある足立さなえさんに、お店のこと、ご本人のことetc、聞いてみました。
(取材・文章 高野 朋美)
■雑貨店をやりたい
チャリチャリの店内
国道9号線から少し入った、出雲市の比較的静かな通りにある雑貨店「チャリチャリ」。お?こんなところに雑貨屋さんあったっけ?と思いつつ窓越しに見てみると、むむ、おもしろい雑貨がいっぱいありそう、と期待がふくらむ。チャリチャリ、という響きもかわいい。きっと自分だけのお気に入りが見つかるんだろうな、そんなふうに、ワクワクしながら店内に入っていける。ここはそんな店だ。
よく、何テイストの雑貨屋?と問われがちだが、そもそもチャリチャリは、そういう線引きでは区切れない。強いていえば、店主・足立さんが自分のお気に入りを集めた、『足立テイスト』の雑貨屋さんだ。
万人受けする人、印象に残る人、世の中にはいろんな人がいるが、足立さんは、いい意味でちょっとクセのある人、というのが記者の第一印象。サングラスをひっかけ、サバサバとした雰囲気で店内にたたずんでいる。思わず「ねえさん!」と声をかけたくなるほどだ。ただ、雑貨が大好き、という気持ちだけはひしひしと伝わってきた。
「この店自体、全部手づくり。棚から何から、一から作ったものです」
好きこそものの上手なれ、という言葉があるが、足立さんはそれを地で行くような人だ。
■高校生で名刺交換
チャリチャリの商品
足立さんが、雑貨店をやりたい、と思い始めたのは、まだ学生の頃。周囲に「私、雑貨店やる!」と宣言していたという。しかし、単にやりたい、と思っていただけではないところが、彼女の面白いところだ。
足立さんは高校時代、ある雑貨屋さんにくっついて、ギフト商品の展示会に行ったことがある。
「まだ高校生で、どこでも働いてなかったのに、その時私は自分の名刺を持って行ったんです。それで、雑貨の卸業者の人たちと名刺交換しまくったんです」
学生の頃は、業界人と話をするのも緊張するものだと思うが、それをやってのけたところが、なんとも足立さんらしい。これも「雑貨店やる!」という一念がなし得たワザなのだろう。
ともかく、年端もいかない女の子が、その道のプロらと名刺交換する姿を想像すると、なんだかとてもおかしくなってくるが、これがあとで、彼女の身を助けてくれることになる。
そんな足立さんだが、社会人になってからすぐ雑貨店を始めたわけではない。最初は会社の営業職に就き、その後結婚。このときに「よし、雑貨屋を始めよう」と本格的に考え始めた。
「ところが子供ができちゃって。雑貨屋の話は棚上げになりました」。
■耳元でささやく
足立さんご本人。「写真はイヤ~」と言うところを、半ば無理矢理パチリ、と撮っちゃいました。独特なキャラクターを持つ、おもしろい人です。
出産、子育ては、想像以上に女性の時間を奪っていく。その中で、自分の夢や希望を叶えられなくなっても、無理はないのだ。この時、足立さんが雑貨店を始めるのをあきらめていたら、チャリチャリは誕生していなかった。
しかし足立さんは、ちっとも諦めてはいなかった。とはいえ、家族の協力がなければ店はやれない。そこで足立さんは、ある行動に出た。
「子供を産んでもなお、雑貨屋をやりたい、という気持ちが消えなかった。だから、夫の耳元でささやき続けました」
雑貨屋やりたいな~、ここであきらめたら、たぶん一生後悔すると思うー
やりたいと思ったら、何かせずにはいられないところが足立流というか。彼女の夫が、事あるごとにささやき続けた彼女に根負けしたのかどうか、定かではない。そのうち、夫の妹までが「実は自分も雑貨屋をやりたい」と言い出し、家族の雰囲気は一気に「雑貨屋さんをやらせてあげようか」という方向へ傾いたという。かくして足立さんは、夢だった雑貨屋をオープンすることになる。
でも「お店をやるための勉強をしたわけでもないし、デザインやインテリアを学んだわけでもない。全く何も知らないままのスタートでした」とサラリ。雑貨をどこから仕入れていいのかどうかも分からない状態だった足立さんを救ったのが、高校時代、ギフトショーで交わした、あの名刺だった。
「あのとき交換した名刺を引っ張りだしてきて、片っ端から雑貨卸に連絡しました」
何とか雑貨をそろえて、分からないなりに内装を自分たちの手でやり遂げ、チャリチャリはオープン。4年前のことだ。。
■感謝の気持ちを雑貨に込めて
「チャリチャリ」とは、インドネシア語で「探す」という意味なのだそうだ。足立さんはチャリチャリを「宝さがし系雑貨店」という。
「雑貨にもいろいろあって、チープな雑貨、ちょっと高価な雑貨があるでしょ。うちは、その中間をいきたかったんです」
暮らしの中に、手頃に手軽に取り入れられる雑貨を提供したい、そんな願いがあった。
足立さんはいま、雑貨を店舗などのインテリアに使いたい、という要望にもこたえ、自ら出向き、ディスプレイをも手がけている。
そしてつい先頃、足立さんは、これまで自分が感じてきた思いや気持ちを精一杯込めた、ひとつのカタログギフトを作り上げた。名前は「ARIGATO for you」。出雲在住のアートディレクター、夏目薫さんとのコラボレーションで生まれたものだ。
足立さんは自らの結婚式のとき、とても後悔したことがある。
「式に来てくれた人に、一人ひとり感謝の気持ちを伝えきれなかったんです」。
時間が決められた式の中で、列席者それぞれとゆっくり語り合うのは難しいこと。それなら、せめて感謝の思いをギフトに込めたい、と強く思ったのが、「ARIGATO for you」を作るきっかけになったのだ。
「ARIGATO for you」は、自分たちが選んだ雑貨を載せることができるカタログギフトだ。デザインやギフトの点数も自分たちで選ぶことができる。完全オーダーメードの、自分たちだけのカタログなのだ。どこにでもある凡庸な引き出物でなく、列席者の顔を思い浮かべながら選んだ雑貨を、列席者のためだけに贈る、というこだわりが「ARIGATO for you」の大きな特徴だ。
足立さんはチャリチャリの歴史を語るとき、「たまたま」という言葉をよく使った。たまたまいい雑貨卸さんにめぐり会った、たまたまお店を出す場所がみつかった、などなど。でも、きっとそのあとにこんな言葉が続くのだろう。「たまたまいい人たちに恵まれたから、好きなことがやれている。ありがとう」。
短い時間のインタビューの中で、記者の目に映った足立さんは、「ありがとう」を手当たり次第に言って歩くような人には見えなかった。というより、照れて口にできなさそうなタイプの人に見えた。だからこそ、感謝を雑貨に込めるのかもしれない、と勝手に思っている。
お気に入りの雑貨は、チャリチャリという言葉通り、探して探して、ようやく発見することができる。きっと、探すということ自体が、思いのたくさん詰まった行為なのだ。そう考えると、ありがとうと宝探しはちょっと似ている。今度の週末あたり、久しく忘れていた感謝の気持ちを引っさげて、チャリチャリの扉を開けてみてはいかが。
■今回掲載した企業データ
社名 |
雑貨 チャリチャリ |
住所 |
島根県出雲市今市町北元町5-4-6 |
TEL |
(0853)20-0880 |
FAXX |
(0853)20-0881 |
メール |
zakka@noomise.com |
URL |
ArigatoForYou |
2005年3月取材