トーワ株式会社(島根県松江市)【連載39】
【今回の元気企業】
トーワ株式会社 社長 杉原 司郎さん
「歩導くん」は、これまでの点字ブロックの常識を変える視覚障害者歩行誘導ソフトマップだ。
従来の凸凹したものではなく、表面が少し浮き上がった状態のゴムマット。
一見、何の変哲もないマットだが、実は計算しつくされた要素が多くある。産学官によっての開発で、その先頭に立った杉原社長は胸を張って「歩導くん」を送り出している。
(取材・文章 多々納)
「歩導くん」
「歩導くん」は敷設方法にも“一工夫”
「今までの点字ブロックは、視覚障害者には便利でも、車椅子の方やベビーカーを押す人にとって、また、それが必要なはずの視覚障害者本人にとっても危険な場合があります。「歩導くん」は、そんな問題点を一つ一つ解決し、誰でも安心して使えるように開発しました。」
誰にでも安心してもらえるはずの「歩導くん」だが、実はまだ行政には完全に認識されていないのが現実である。産学官の“官”、島根県の一部施設には敷設してあるが、まだ不十分。「もっと広い範囲で認められる必要があるのでは」と思い、杉原社長は、国へ提案する策に打って出た。
日本盲人会連合をはじめとする11団体の後押しを受け、内閣府へ直訴している。徐々にではあるが、国の態度も軟化。製品の実力は認められているという。 今はまだ屋内専用だが、屋外用も同時進行で開発中。今後が期待される。
若き日の起業
トーワ株式会社本社(島根県松江市)
電気工事技術者として、高度成長時代は東京で活躍していた杉原社長。東京五輪が行われた翌年に帰郷。その後サラリーマンを経て、電気工事関係の仕事で独立。その後、駐車場管理システムなどの基幹業務を中心に、業績は上がっていった。
「50歳を過ぎた頃からでした。だんだんと視力が低下してきました。」 技術者としても、命といえる視力が落ちていき、医者からは失明を宣告された。手術をしたものの、2年ぐらいでまた低下。ついにはほとんど視力を失ってしまった。
若い頃、柔道や空手で鍛えた精神力もあり、そのまま落ち込まないのが杉原社長。すぐさま音声誘導装置を開発。しかし、これは交差点で行き過ぎたり、うまく作動しなかったりと、問題点が多かった。 そして、約一年かけて開発したのが「歩導くん」だった。
福祉環境の問題点
現状の点字ブロック(周りの色と同化したもの)
通常、点字ブロックがきっかけで転んだりしても、文句を言う人は少ない。ある意味、「タブーな行為では?」という心理が働いてしまい、どうして、もうやむやになってしまう。
しかし、杉原社長は、「それではいけない。本当はもっと言うべきです。実際に点字ブロックが原因で怪我をされている方は多数いる。バリアフリーのはずが、健常者や車椅子の方には「バリア」になってしまっているのです。私自身、スーツケースを引っ張って歩いていると、コロがはまって動かないときがある。」
更に杉原社長はこうも指摘をする。「よく、点字ブロックが床や道路と同系色になっているものがあります。視覚障害者といっても、弱視の人は色の区別で自分の歩く場所を探します。しかし、見た目で分からないと、点字ブロックを探すのが大変な作業になってしまいます。これは、健常者の感覚で敷設するから、こうなってしまうのです」 実際に、建物や道路が出来たとき、視覚障害者の方にテストをしてもらい、その使い勝手を確認しているという。
しかし、何故、後になって問題になるのか。「建物でも街でも、一つの空間として考えなければならない。視覚障害者の方には、設計段階から参加してもらわないといけないと思う。出来てから手を引いてどうですか?と聞いても本当の意見は聞けません。あとでその人が一人で歩けるかが重要なんです」
本当の福祉
現状の点字ブロック(デザイン重視で曲がりくねったも)
取材の最後に、「福祉って、どういう意味ですか?」と聞かれた。
明確な答えが出来なかったことが情けなかったが、杉原社長はこう話してくれた。
「辞書を引けば、ほとんどの辞書に“幸福・幸せ”と書いてあります。しかし、本当の意味での福祉とは、“思いやり”ではないでしょうか。思いやる気持ちがなければ、いい社会は出来ないはず。建物でも、福祉機器でも、思いやりをもって利用していけば、どこかに良い方法は見つけられるはずです」
社名 |
トーワ株式会社 |
代表者 |
杉原 司郎 社長 |
設立 |
- |
住所 |
島根県松江市学園南2丁目1番2号 |
TEL |
0852-24-7631 / fax 0852-25-0910 |
資本金 |
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従業員 |
- |
メール |
towa@mable.ne.jp |
URL |
2005年10月取材
点字ブロックの新提案「歩導くん」を開発