浜村建設(島根県出雲市)【連載#46】
【今回の元気企業】
株式会社浜村建設(建設業)
浜村建設公式サイト
専務取締役 浜村 一彦さん
ブログ 『浜村専務の「世相を斬る! 』
お客様の生涯利益(幸せ)を第一に考え、地域活性化の為に事業者の方をマーケティングを通してサポートする浜村建設。
〒693-0011 出雲市大津町597
TEL 0853-21-1673
FAX 0853-21-7078
おかしな建設屋さんがいます。
島根県出雲市では超有名な建設会社「浜村建設」です。
おかしな、というと怒られそうですが、やっぱりちょっと変わっている。
そう思ってしまうのは、数年前から手がけていらっしゃる意外なお仕事が原因です。
それは、ショップのコンサルティング。飲食店から美容関連ショップまで幅広くコンサルティングをしていますが、驚くのは、場合によってはコンサルティング料、タダ!
いったい、どういうことなんでしょうか。
専務の浜村一彦さんにお話をお聞きしました。
(取材・文章 高野 朋美)
建設業からコンサルへ?
浜村建設 本社屋
浜村建設といえば、知らない人がいないくらい、出雲に古くからある建設会社。
一般の住宅からビル、店舗まで、幅広い建物を手がけている。
ところがこの老舗建設会社が、最近、意外なことを始めた。
それは「コンサルティング」。
なぜコンサルティングを?という質問に、浜村専務はこう答えた。
「私たちの仕事は、町が元気でなければ儲からないんです。町の商店が儲かり、町に活気が生まれて初めて、私たちの業種も潤うんです」
浜村建設のある出雲市は、人口15万人。島根県で二番目に大きい市だ。
だが、町は以前に比べて、かなりさびれてきている。
駅前の商店街は軒並みシャッターが下り、幹線道路沿いには、都会から進出してきたチェーン店ばかりが目立つ。
地元店は減るばかり。
「これではいけない。地元の経済をもっと活発にしなければ」。浜村専務は、そう思ったという。
お客様を呼ぶためには、どうすればいい?
膨大なマーケティングデータや資料をもとに熱く語る浜村専務
だが、町が再び人であふれるには、どうすればいいのか。
浜村専務は、自信を持ってこう話す。
「町が元気になる秘けつは、消費を継続させること。つまり、地元の人が地元のお店で買い物するように持っていけばいいんです」。
地元の人々が地元の商店で買い物しない。
これは、島根のどの街にも横たわっている問題だ。
その理由を、浜村専務はこう分析している。
「大手のチェーン店以外、繁盛店というものがない。お客様が引きも切らない大繁盛するお店が出てくると、みんなそれに追随しようと、サービスや販売手法をまねする。すると、地元店の魅力が増して、町が元気になってくる」
確かに島根には、都会の店に負けないサービス、物、売上を誇るショップは、非常に少ない。「秀でた店」を知らない地域の商売人は、何が大繁盛のコツなのかが分からないから、秀でた店になることができないのだ。
しかし、理屈は分かっても、具体的に何をすればいいのか見当もつなかいというのが普通だろう。
浜村建設のコンサルティングは、ここからが腕の見せどころなのだ。建設会社が持つ独特の“強み”を活かした、目からウロコのコンサルが繰り広げられている。
超地域密着のマーケティング
浜村建設独自のフリーペーパー
だんだん倶楽部会報
浜村建設は毎月、「だんだん倶楽部会報」という同社独自のフリーペーパーを発行している。手作り感いっぱいの、A3サイズの新聞だ。
中味を見ると、地元で起こっている小さな出来事、地元の人、お店など、極度に地域密着でアットホームな情報が載っている。
配付先は、浜村建設で家を建てたことのある一般人や、仕事を受注したことのある会社など。発行部数は350部にのぼる。
「毎月、楽しみに待っている」というファンまでいるこの会報。だがこれは、単なる無料の情報紙ではない。
同社コンサルティングの核ともいえる「地域密着マーケティング調査」を可能にし、消費者が望むお店づくり、町づくりを後押ししていく、重要な媒体だ。
「会報は、当社とお客様とのコミュニケーションを結ぶ『糸』のようなものです。お客様に役立つ町情報を多く盛り込みつつ、ときどきお客様に対してアンケート調査をさせていただく。アンケートによって、お客様が本当に望むショップ像を浮き彫りにし、そのショップを出雲に誕生させ、それをまた会報で紹介していく。こうした、どこまでも消費者利益につながるような良い循環を生み出すのが、会報の役割なんです」。
浜村コンサルの最大の武器は、会報を糸口とした「地域密着消費者アンケート」と、それにもとづく経営サポート、起業支援なのだ。
とくに、会報を取っている顧客に対して行う消費者アンケートは、回答率、回収率ともにすこぶる良い。
出雲市民の本音が聞ける、質のよいアンケートだからこそ、地元店に有益な情報となるのだ。
浜村専務はさきごろ、600人を対象に、40項目にもおよぶ消費アンケートを実施。結果を集計し、出雲地区の購買心理を細かく分析した。
出雲という地区に限定した、レアながら、地元商店にとってはすぐに使えるお役立ちデータだ。
浜村専務は、これらのデータをもとに、数店舗のコンサルティングを実施。
そして最近、移転してしまったため、馴染みの客が離れてしまった一軒の洋食店を、閑古鳥から救った。
アドバイスしたことは、とても簡単なこと。
お店がここにある、という自己PRをすること、
看板を見ただけで何のお店か分かるようにすること、
口コミ効果を利用すること、などだ。
同時に、だんだん倶楽部会報でもお店のことを紹介。ランチの時間、それまで一度も埋まったことのなかった席が、見事に満席になったという。
答えは消費者が知っている
小冊子「商売繁盛の秘訣」と
浜村建設が紹介された本
もちろん、繁盛のためのアドバイスをするだけではない。ファイナンシャルプラン、事業計画、経営手法…。
ショップ運営に必要なあらゆることを、浜村建設だけですべてサポートしているのも、もうひとつの大きな特徴と言えるだろう。
浜村専務は、出雲の地元店が繁盛しない理由を、こう語る。
「昔のように、お店を開けていれば商品が売れる、という状況ではありません。高度成長期の頃にお店をやっていた人は、このことをまだきちんと理解していないんです。変えなければならないのは、商品ではなく、売り方なのです」
さらにこう言う。
「ものを売るためにどうすればいいかは、消費者に聞けばいいのです。最近、買い物で感動したことは何か、とか、どんなときにものを買おうと思うか、とか。答えは、消費者が知っています」。
浜村専務は、コンサルティングの勉強を専門にしたわけではなく、詳しいマーケティング知識を持っているわけでもない。
分からないことは地元の消費者に聞く、という、とてもシンプルなことを実行しているだけだ。
だが、どんなすばらしい理屈より、どんな高度な分析よりも、確かな効果を期待できる。
そして、これだけ地元に根づいたコンサルティングは、大手にはできない。
いっしょに生き残ろう
浜村建設の望みは、地域とともに生き残っていくこと。
日本はこれから、人口減少時代を迎える。
このまま過疎化を放っておくと、島根は近い将来、消えてなくなるかもしれない。
そんなことにならないよう、地元のお店に繁盛してもらい、町が活気づけば、おのずと同社も繁盛していくと考えている。
だから、コンサルティング料は「無料」でもいいのだ。
「今後は、まったくタダというわけにはいかないでしょうが、コンサルティングで儲けようとは思っていません。繁盛店がひとつでも増えればそれでいいし、コンサルをきっかけに当社でショップを建ててもらえれば、それだけでうちの利益になりますから。いまはとにかく、いいお店を出雲に作りたい、と強く思っていますね」。
ここで買って良かった、またお金を使いたい、と思わせてくれるお店。
そんなお店が出雲の町にあふれている姿を、わたしも、ぜひ、見てみたい。
会社プロフィール
社名 |
株式会社浜村建設 |
代表者 |
浜村 一雄 社長 |
住所 |
〒693-0011 島根県出雲市大津町597 TEL 0853-21-1673 FAX 0853-21-7078 |
URL |
浜村建設公式サイト |
平成18年4月取材
地元ショップに「足りないもの」を指摘する異色コンサルティング。株式会社浜村建設