ヴァイオリン奏者 辺見康孝さん(島根県松江市)【#連載69】
(取材・文章 tm-21.com)
(写真・音源提供:辺見康孝さん)
戦う!!ヴァイオリン
【今回の元気人】
ヴァイオリン奏者:辺見康孝
(へんみ やすたか)さん
1971年 松江市生まれ
島根大学教育学部特音課程、
同大学院修了
ブログ(戦う!!ヴァイオリン)
http://sun.ap.teacup.com/yashemmi/
コンサート会場は、松江市宍道町にあるギャラリーC、70人程度収容の小さなホール。
静かに始まった演奏は、なんとヴァイオリンを指や弓のお尻の部分でたたき始めた。小さな音が静かな空間に流れた。観客は唖然として見守っている。
ヴァイオリンコンサートといえば、うっとりするような音色に癒される、そう思っていませんか? 一曲目が終わった後、辺見さんこういいました。
「音楽は、癒されるだけではありません。ヴァイオリン・楽譜と格闘し、自分自身と戦っています。そんな音楽表現を聞いてください。」
戦うヴァイオリンなのです。
一曲目はラッヘマンのトッカテイーナという、短い曲。たたいたり、こすったりと特殊奏法のオンパレード、私はざわざわする感覚を覚えた。「ざわざわ・ぎしぎし」そんな感覚に、心と肌をなでられたようだった。
確かに、癒されはしません。
辺見康孝とヴァイオリン
松江市宍道町にあるギャラリーCで演奏する辺見さん。
いただいたパンフレットには、3歳からヴァイオリンを始め、島根大学・同大学院をへて、同大学非常勤講師を務める。と書いてあった。
1971年松江市生まれ、両親・祖母ともに教育関係者。
音楽関係者ではありません・・・。父親は心理学系、母親は看護婦、祖母は事務です。
きっと、両親に連れられてヴァイオリン教室に通っていたと思いきや、物心ついた頃には、ハエタタキと孫の手を持って、ヴァイオリン演奏の真似をしていた。それを見た両親がそんなに好きならとヴァイオリン教室に連れて行ったという。
どうして、そんな真似をしていたかは、自分でも良くわからないという。
そんな写真が残っているのだとか。
そんな辺見少年、さぞかし熱心にヴァイオリンに励んだことでしょう。
ところが、なんとなく続けていたそうで、あまり熱心でもなかったようだ。
当時は、喘息気味であまり外で遊べなかった辺見少年は、ヴァイオリンの先生にオコラレルことがいやだから、練習していたらしい。
ふむふむ、ごく普通の少年だった。一番のお気に入りは昆虫、昆虫博士といわれていた。
少年の興味は次々と変わっていく、中学になると器械体操をやりたいと思った。
しかし中学に器械体操部は無かった、オーケストラ部に入る。
高校でようやく器械体操部に入った。
辺見さんいわく、全部中途半端だったな。
人はみな、大人になってから、あの時もっとこうしておけばの連続、子供たちはみな中途半端、卓球の愛ちゃんのように、幼少の頃からひとつのことに励み、努力できる人間は天才としか言いようが無い。凡人のつぶやきである。
さて、大人になった辺見さん島大でヴァイオリンの勉強に入った。
3歳からずっと続けてきて、やはり自然にこの道を選んでいたようだ。何しろ、ハエタタキですから。
周りの人も本人も、音楽教師の道に進むものと思っていた。
しかし、演奏者の道を選んだ。
周りは当然反対する、しかし辺見さんかなり頑固らしい。
「音楽をやっている人間は、みんな頑固でわがままですよ」と笑っていた。
よく聞いてみると、実は高校生の頃から、ヒップホップグループに参加していた。
ヒップホップが今のように、メジャーな音楽になるかなり前の話。
音楽の道を進めば、ヒップホップもやれるじゃないか。そんな発想のようだった。
一見、おとなしくてまじめそうに見える辺見さん、話を聞いているうちに、いたずら少年のような雰囲気になっていく。
ヴァイオリニストだなと思わせるのは、女性のようにしなやかできれいな手だったこと。
意外と小さな手だった。
現代音楽との出会い
大学3年、先輩に勧められ山口県での「現代音楽セミナー」に参加した。
作曲家のための1週間のセミナー、ここで現代音楽との衝撃的な出会いをした。
日本現代音楽を代表する作曲家 細川俊夫先生がセミナーの音楽監督だった。
この後、辺見さんは現代音楽をやりたいと、本格的にヴァイオリンの道を歩み始めた。
2001年ベルギーへ行った。
ベルギーの現代音楽アンサンブル「シャンダクション」に参加し、ヨーロッパ各地をはじめ、日本、アメリカ・アフリカと世界中をめぐる2年間、そして様々な国際音楽祭に招待され、精力的な演奏活動を繰り広げた。
現在35歳、20代後半に見える。
お話を聞いていると、3歳から始めたヴァイオリンという流れが本流にあり、昆虫やヒップホップ・器械体操という支流がやがて本流に合流しているようだ。
人として音楽家として、多様な価値観を持つことはとても大切なことと思えた。
何でもトライしてみることは、決して無駄にはならないと感心するばかり。
しかし、周りの心配をよそに、まあ、次から次へといろいろやるものだと・・・・・・。
私が母親だったら、心配で心配で・・・・・ねえー。
そして現代音楽
コンサートの最後の曲は「細川俊夫」のウインターバードという曲。
高音から低音へと響く音は、雅楽楽器「笙」の音にも聞こえる。
中盤はヴァイオリンをギターのように抱えて弾いた。この音は「琵琶」のようだった。
全体に東洋的な思想を感じたのは、私だけではなかったようだ。
芸術は様々で、たとえば絵画や彫刻には「具象」「抽象」とある。
音楽にも「抽象」の世界があったことに始めて気づかされた。
しかし、現代音楽はまだまだ、一般的ではない。
辺見さんは、古典と現代、両方を続けていくという。
現代音楽をもっと、皆さんに知ってもらいたいと話していた。
2月東京 そのあとアメリカと 現代音楽演奏会が続いている。
5月6日には松江市プラバホールで、ハープと競演するヴァイオリンコンサートがある。
このコンサートはサンサースの白鳥、クライスラー愛の喜び、癒される曲満載のコンサートだ。
精力的に活動する辺見さん、頑固でわがままな一徹さは人一倍。
しかし、辺見さんの柔らかでしなやかな心と思考も人一倍。
芸術家は二重人格なのか、いや二面性、多様性が必要な職業と思えた。
これも、凡人のつぶやきだった。
皆さん、現代音楽どんな音楽家興味がわきませんか。
たとえば、TVのドキュメンタリー番組やサスペンスドラマなどで、不安や恐怖などを表現した場面ではよく使われるようですよ。
ちょっとだけ、聴いてみてください。(最下段で実際に試聴できます。)
5月6日(日)プラバホールで午後2時から、辺見さんのリサイタル
これは癒されますので聴いてみてください。
ハープとの競演は珍しいですね、普通はヴァイオリンといえばピアノとの競演。
辺見さんいわく、ピアノにはヴァイオリンが負けてしまいそうで、見つけたんです。
ハープと演奏すると、とってもいい感じなんですよ。
皆さん、どうぞお楽しみに。
平成19年1月28日取材