ヤマサン正宗の酒持田本店(島根県出雲市平田町)【#連載64】

出雲市平田町木綿街道 明治10年創業の老舗酒蔵・ヤマサン正宗の酒持田本店に、若旦那・持田祐輔さんを尋ねた。

(取材・文章 tm-21.com)

明治10年創業の老舗酒蔵・酒持田本店と
若旦那・持田祐輔さん(昭和51年生まれ) 

【今回の元気企業】
ヤマサン正宗 蔵元
株式会社 酒持田本店
島根県出雲市平田町785
TEL 0853-62-2023  FAX 0853-62-2075
ヤマサン正宗酒持田本店公式サイト
明治10年創業の老舗酒蔵・酒持田本店と
若旦那・持田祐輔さん(昭和51年生まれ)

 雲州平田木綿街道

平田船川にかかる平田大橋(大橋といっても小さな橋)をわたると、黄色いのぼり「木綿街道」が見える。そこから、車が1台通行できるほどの路地が、延びている。ここが、雲州平田木綿街道だ。

路地の両側は、切妻漆喰塗り壁、格子、なまこ壁、独特の建物が並んでいる。
生姜糖屋さん、醤油屋さん、その隣にお目当てのヤマサン正宗の酒持田本店はあった。

磨き上げられた格子戸、ガラス戸、二階の格子は長いものと、短いものが組み合わされ、美しいフォルムを見せている。
白い木綿の暖簾、新酒が出来上がった目印の杉玉。
振り向くと、倉庫の真ん中が通路になって、石段が下に伸び、船川の川面が光っている。

ここは木綿街道、その昔、平田木綿の集積地だった。
木綿・米、酒持田本店は、ここから酒を運んでいた名残だ。

この路地、歩いてみると楽しい。 年代を重ねた重厚な建物が、今も息づいている。
毎年開催されている木綿街道のイベントには、期間中1万人の人出があるというのもうなづける。 おもてなしの工夫が、様々な場所で見受けられる。
木綿街道の詳しいことは、木綿街道公式ホームページで。

創業100年以上の歴史を感じさせる酒持田本店
創業100年以上の歴史を感じさせる酒持田本店

ヤマサン正宗の酒持田本店若旦那 持田祐輔さん

酒蔵の目印『杉玉』と新酒の目印『ササ』

酒蔵の目印『杉玉』と新酒できあがりの目印『ササ』

出迎えてくれた若旦那、1976年生まれの31歳、ほんとに若旦那さんだ。
入り口で気になったので、聞いてみた。
二階の格子戸の前の屋根瓦の上に、一本の枯れたササが立っている。
「何ですか」
「今は全国、酒蔵といえば杉玉ですが。このあたりでは、新酒の目印にはササを立てたんです。
古い言葉でお酒のことを ササ というんです。そこから、きてると思います。」
「はああ・・・・」

創業明治10年、5代目。
事務所も案内されたお座敷も年代を重ね、大切に磨きこまれた風格がある。
おみごと の一言だ。

今年、東京から帰郷したばかり、まだお酒のことは何もわからない、と話した。

子供の頃の話から始まった。
お酒の仕込みの時期、この家には大勢の 蔵人たち その人たちのお世話をする まかない方の人たちがいた。
子供の頃は、そんな人たちに遊んでもらってました。
子供の頃から、酒蔵の生活が身体にしみこんでいるようだ。

しかし、友達の家に遊びに行った 普通の玄関 にあこがれたという。
子供の思いは不思議なものですね。

大学卒業後は法令を専門とする出版社に就職した。
30歳にして、家業を継ぐことを決め、東京からお嫁さんも連れて帰ってきた。

「当為(とうい)」という言葉を使った。
若いのに難しい言葉を使う。さすが、出版社。
「当為」とは、 そうあらねばならぬ という 必然性を意味する。

今の時代、若者の未来への選択肢は多用だ。
自由なだけに何を選べばよいのか、わからないという。
そんな思いのまま、仕事を続けるうち、自分だけが出来ること、自分にしか出来ないことは?
そんな思いに突き当たった。

つまり、自分にとっての「当為」は、出版社ではなく、酒蔵だと思ったそうだ。
子供の頃から染み付いた、酒蔵の生活がそうさせるのだろう。
長男というのは、親が教え導かなくても、跡継ぎとして育っていくのだろうか。

話し方、細くてしなやかな指、すっと伸ばした背筋。
まじめで几帳面な人柄が伝わってきた。
今年の秋から、初めて蔵に入る。
楽しみでもあり、不安もあるといった。
がんばれ、若旦那。

日本酒

酒持田本店 こだわりのお酒

酒持田本店 こだわりのお酒

日本酒は好きですか?
筆者は、まずはビール、そのあとこの時期は、冷たく冷やした日本酒、それも大吟醸などではなく、普通の日本酒が大好きだ。

昨今の日本酒離れの現状は、この出雲地域の酒蔵の減少から見てもわかる。
その昔、出雲地域に16蔵あった造り酒屋は、平田のヤマサン正宗の酒持田本店を含め4蔵だけとなった。

島根県は酒米のトップクラスの生産地、島根の酒蔵が島根県統一ブランドとして製造販売している「佐香錦(さかにしき)」。 この酒米、普通の米より少し大きく平たい。玄米と精米したものが並べてある。
半透明な芯のところまで磨いてある、大きさは半分以下にも見える。ここまで小さくなるの?驚きだ。
美味しい水、そして出雲杜氏。

11月新米の収穫を終えて、仕込が始まる。
ここからは出雲杜氏の出番、酒は生き物、24時間、目が離せない。
蔵人さんたちは、泊まり込みで仕込みを行っている。

精米など機械化できるところは、機械化しているが、やはり人間の手でないと、うまい酒は出来ない。
実に手間ひまかけて、生まれてくる。
1月~3月、新酒が順次手絞りされる。
4月には蔵は静まり、蔵人は帰っていく。

出雲国風土記によると、この地は日本酒発祥の地だそうだ。
「佐香の川の流域に180の神々が集い、調理場を建て、180日間の酒宴を楽しみ、お別れになった。よってこの地を佐香という。」
佐香(さか)が酒の古名にあたるところから、日本酒発祥の地、佐香神社(出雲市小境町)は酒造りの神様といわれている。
さすがに、10月を神在月、神々が集って宴会を開いたと思うと、納得だ。

しんとした蔵を見せていただいた、土蔵の壁は何度も塗り重ねられ、盛り上がったところがある。触ってみると年代を感じる。
この日の気温は27度、日差しがまぶしく暑いくらい。
蔵の中はひんやり、しっとりした空気に酒の良い香りがここちよい。
夏の暑さから守るための、先人の知恵の集積だ。

毎日何気なく飲んでいる日本酒、日本文化の奥深さにあらためて驚きと新鮮な感動を抱いた。

ところで、飲食店や旅館でお酒を頼むとき、ビールやワインは銘柄を聞かれるのに、日本酒は聞かれることが少ないと思わないだろうか。
日本酒は、ただ日本酒とメニューブックに載っていることが多い。
「日本人、もっと日本文化を大事にしようよ」そんな気がしてきた。
酒蔵の中をのぞき、磨り減った仕込み場への暗い階段、その昔は蒸した米を蔵人が担いで上る。
歴史の積み重ねをみて感じ、思った次第だ。

若旦那の挑戦

酒造研究部屋として使っていた木造洋風建築

酒造研究部屋として使っていた木造洋風建築

若旦那の帰郷に、ご当主は喜び半分、この厳しい時代に苦労をするだろうと心配半分だったようだ。
日本酒離れの時代、この地域だけでは消費人口は少ない。
少ないなら、全国発信しよう。 若旦那の挑戦はこれからスタートだ。

良い酒を造り、全国に発信していく。
インターネットの時代、若旦那の思いも同じ、ネット販売も目指していく。

消費者のニーズにあった日本酒。
酒持田本店の「ヤマサン正宗」、他商品との差別化。
「ヤマサン正宗」の魅力をどう伝えていくか。考えることは山のようにある。

この地域の方たちは、酒持田本店で小売もやっていることを、案外、知らないようだ。
地域にもっと、愛される酒蔵を目指したいとも話した。

この4月に結婚したばかりの若奥様、色白のかわいいお嬢さん、埼玉から平田町の老舗酒蔵に嫁いできた。
この酒蔵で働いている。
     
若旦那と若奥様、二人で支えあって老舗を立派に継承していくことだろう。


「ヤマサン正宗」純米酒一升ビンを買って帰った。
冷たくして飲んだ。

甘すぎず、辛すぎず、癖の無いすっきりしたのみ口。
どんな料理にも合いそうだ。気に入った。
北海道土産の「鮭とば」をあてに、チビチビ?飲んだ。


今回掲載の元気企業データ

株式会社 酒持田本店

法人名 株式会社 酒持田本店
所在地 島根県出雲市平田町785
創業 明治10年
銘柄 純米大吟醸(ヤマサン正宗)、
濃酒井(コザカイ)、雨田笥(ウタゲ)、萌(モエ) 
連絡 TEL 0853-62-2023  FAX 0853-62-2075
定休日 日曜日、祝祭日 / 営業時間8:00から
HP ヤマサン正宗 酒持田本店公式サイト

平成19年6月11日取材