横川伯鳳堂(島根県安来市伯太町井尻)【#連載65】

古い掛け軸や古書画の仕立て直し、しみ抜きを手がける京表具ギャラリー「横川伯鳳堂」を訪ねた。

(取材・文章 tm-21.com)

京表具ギャラリー横川伯鳳堂 横川誠さん 

【今回の元気企業】
京表具ギャラリー横川伯鳳堂
店主 横川 誠さん(昭和33年4月28日生まれ)
〒692-0404 安来市伯太町井尻93-1
TEL 0854-37-1152  FAX 0854-37-1152
ホームページ 横川伯鳳堂サイト

 京表具・表装の横川伯鳳堂

安来市伯太町井尻地区、山間の小さな集落、通り沿いに作業場とギャラリーがあった。迎えてくれた 横川 誠さん 短パンにTシャツ姿、明るい笑顔は、表具師さんという、しかめつらしい職人さんを想像していたが、まったく違っていた。

作業場の大きな机の上には、色鮮やかな「涅槃図」が広げられていた。真ん中に金色の涅槃仏、周りには多くの動物や僧侶人々が描かれ、鮮やかな色は変色も無く美しいものだった。大きさは2メートル四方もあろうかという、見事なものでした。

お寺に所蔵されている掛け軸だそうで、住職も忘れていたほどしまいこんであったもの。そのためカビで黒ずんでいるところがあった。
しかし、しまいこまれていたため、状態はかなり良いそうだ。

この大きな掛け軸、しみを洗い流し、仕立てなおして立派な掛け軸にしあげる。
これが、横川伯鳳堂 横川誠さんの得意とする、仕事のひとつだ。

お話を伺ってみると、奥深い日本の芸術をささえる伝統工芸だとわかってきた。
昨今は、絵や書 掛け軸など縁がないという人たちが多いことと思われるが、手仕事を受け継いでいく職人さんのお話は、私達にも芸術を身近なものにしてくれるかもしれない。

横川伯鳳堂(島根県安来市伯太町井尻)【#連載65】

↑伯太町井尻の小さな集落の中に横川伯鳳堂はある。

表具師 横川 誠さん

職人さんと言えば、イメージは「頑固そうで無口、ぼそぼそしゃべる」なんて、思う。
横川さん、大きな声で、しゃべるしゃべる、明るくとっても元気なおじさん。
昭和33年4月28日生まれ49歳、お父さんが昭和26年創業し、跡をついで二代目となった。

もともと、お菓子屋さんだったお父さん、だいの骨董好き。趣味が高じてみよう見真似で、表装を始めたというから、とっても器用な人だったに違いない。
子供の頃から、お父さんに連れられて、骨董を見、掛け軸に出会い、表装も身近なものだった。

中学生のとき、表具師さんに表装を教わったところ、「見込みがあるから、高校を卒業したら来なさい。」
そのとき、誠少年の進路は決まった。
3年の修行の後、横川伯鳳堂で仕事を始めた。
そして30年、黙々と一人で作業を続けている。

 

仕事の道具

様々な刷毛類と筆類が並ぶ。用途に合わせていろいろなものを使いこなす。

様々な刷毛類と筆類が並ぶ。用途に合わせていろいろなものを使いこなす。

大きな作業台と様々な形の刷毛、用途に合わせていろいろなものを使いこなす。

大事そうに、大きな掛け軸を運んできた。
少しずつ開いていくと、めきめき音がする。黒ずんで、絵の具はひび割れ剥落している部分も多い。
聖徳太子を題材にした、かなり古い時代の掛け軸だ。
まじかで見せてもらうと、すっとひいた目、生え際の細かい線、着物の文様など、見事なものだった。
しかし、ほんとにぼろぼろ、これをどうやって仕立て直すのか?????。

簡単に説明すると、

  • 絵の描いてある本紙を台紙からはずす
  • 絵の具のわれや剥落を修理する
  • 軸に仕立て直す

これだけだ。

まず、台紙からはずすといっても、水につけておくわけにもいかない。もちろん水は使うが、でんぷんを溶かす酵素を使うのだそうだ。

汚れやしみをぬいて、絵の具の修理をする。
このときに使う筆が出てきた。細かい面相筆、何種類もあるようだ。

これから、半年はかかるという。
いろいろな道具を見せてもらった。
しかし、最大の道具は横川さんの腕
自分の腕一本と根気の勝負、さてどんな風に仕上がることか、ぜひ目にしてみたいと思った。

表装とは

作業場の大きな机の上には、色鮮やかな「涅槃図」が広げられていた。しみを洗い流し、仕立てなおして立派な掛け軸にしあげるという。

作業場の大きな机の上には、色鮮やかな「涅槃図」が広げられていた。しみを洗い流し、仕立てなおして立派な掛け軸にしあげるという。

表装には、様々な決め事やしきたりがある。
正式名称はなんだか読めない漢字、難しいのでやめた。

  •  「真の表具」宗教的内容をもつ書や絵画の表装
  •  「行の表具」一般の座敷掛けの表装
  •  「草の表具」お茶席のための表装
      
    それぞれに、裂地にも仕立て方にも細かな伝統と格式があるらしい。

隣のギャラリーをのぞいて見た。
数本の掛け軸が飾られていた。

浮世絵があった。雨傘を差した女性が、ぬかるんだ道を歩いている。風がつよいか、着物のすそが翻っている。

浮世絵の上下に、一文字という2センチほどの裂地がピシッと押さえている。
浮世絵は色使いの少ない小品、まわりはグレーの地味な唐草文様、その中で
一文字の裂地は、淡い浅黄色に白い水輪が描いてあった。

面白いと思いませんか、ぬかるみと描かれていない雨足、それを想像させる水色と水輪、グレーぽい色調の中で、際立っていた。
遊びごごろを感じて、ふーんと納得した。

眼光するどい達磨には、5センチはありそうな太い一文字、周りはグレーに一文字は臙脂がかった茶色、とってもインパクトがあり、全体を引き締めている。
絵の迫力に負けない仕上がりだ。

もちろん、しきたりや伝統を踏まえつつ、その中に遊びごころをちょいとのぞかせる。
粋なものだと、面白く拝見した。これには、表具師のセンスも必要だ。

どうですか、表装というもの少し身近になってきましたか?
自宅にあるもの、身近にある掛け軸や額、屏風など、あらためてよく見てください。今までと違ったことを感じられないだろうか。 

日本の芸術文化をとりまく現状

作業場に隣接したギャラリーには横川さんお気に入りの書画が展示してある

作業場に隣接したギャラリーには横川さんお気に入りの書画が展示してある。

いまや、床の間のある住宅はどれほどだろうか。あちこちの住宅展示場をみても、日本間のある家は少ない。
床の間に掛け軸を飾りつける、座敷となると、新築住宅では減少しているようだ。当然、表具屋さんの仕事も減少していく。

たとえば、書道をたしなんでいる方が、書道展に出品するため、表装します。

表装の世界も機械化されているようで、早くて安い表装があるそうだ。
でんぷんのりを刷毛で伸ばして、ではなく、両面テープのようなものでペッタン、水も使わないから早いはずだ。
なんてことは多くあるケースのようだ。

これでは、もう一度仕立て直しなどは無理な話。もちろん、たしなむ程度なら、機械表装で十分、用途や要望で使い分けると良い話だ。

横川伯鳳堂は、古い掛け軸の仕立て直しや、しみ抜きの仕事が多くなっている。
お客様は、掛け軸の好きな高齢者、また、たくさん伝来の品がある旧家となってくる。

この方達も、世代交代していくと、掛け軸たちは忘れ去られ、朽ち果てていくのだろうか。なんだか、せつない気がしてくる。

日本の芸術文化、伝統工芸の表装など様々な伝統文化を、もっとたくさんの人に理解し、大切に守ってもらいたいと願わずにはいられない。

近年、古民家、骨董など和のブームの兆し、とっても素敵なことと思っている。

新しい試み

作業場の戸棚をあけると、びっしりと裂地が並んでいる。京都西陣織、見事な絹織物、見せていただくと、細い糸でしっかり織り込んだ美しい布、金糸も細く上品な輝きを見せている。

淡いベージュに金糸で「葵の紋」が織りあがっている。松平不昧公の掛け軸に使うという。松平家ですから葵の紋、なるほど。

絵や書に合わせて、裂地を使う。織屋さんに色や文様を伝え織ってもらうようだ。ところが、この織屋さんがどんどん廃業しているらしい。
本物の絹と金糸を使った織物は美しいが、もちろん高価なもの。
絹糸も金糸もいろいろ混ざり物があっても、同じ絹地といっているらしい。
混ざり物があると、数年で変色し輝きを失っていくようだ。本物はすばらしい。

最初に見せていただいた「涅槃図」、江戸時代のものらしい。裂地がついていた。赤みがかった茶色に金糸、輝きは失われていない。細かな文様が美しいものだった。

本物とそうでないもの、きちんと表示し、大切に伝統を伝えていくべきものだと痛感した。

織屋さんが廃業していく。
本物の裂地が手に入りにくくなっていく。
横川さんは古い着物や帯を使って、表装をしてみたいと話した。

思い入れのある、着物や帯などそのままたんすの中に眠っているものも多いはず。形をかえて、大切にすることも面白いと思う。
また、床の間のない現代住宅にマッチするものも手がけたい。

そんな思いを熱く語る横川さん、思いを形にし、発信していくことがこれからの課題といえる。

安来市伯太町、山間の小さな表具屋さん、地方からの発信にエールを送りたい。

今回掲載の元気企業データ

京表具ギャラリー 「横川伯鳳堂」

法人名 京表具ギャラリー 「横川伯鳳堂」
所在地 安来市伯太町井尻93-1
創業 昭和26年創業
業務 掛け軸、古書画の仕立て直し、表装、京表具 
連絡 TEL 0854-37-1152  FAX 0854-37-1152 
ホームページ  横川伯鳳堂サイト

平成19年9月2日取材