島根動物愛護ネットワーク 西原範正・織江さんご夫妻(島根県雲南市)【#連載75】

子供たちの数より犬猫のペットの数が多いというペットブーム。しかし、その一方保健所へ引き取られ、処分される犬猫も多くいる。処分される犬猫を減らそうと、島根動物愛護ネットワークを立ち上げ、活動している 西原範正・織江さんご夫妻にお話を聞いた。

(取材・文章 tm-21.com)

西原範正・織江さんご夫妻 

【今回の元気人】
西原範正・織江さんご夫妻
島根動物愛護ネットワーク代表
有限会社イスコデザイン代表 
〒699-1121 島根県雲南市加茂町神原1438-1
TEL&FAX 0854-49-7021
メール nori@isko-design.com
島根動物愛護ネットワークHP
http://www.s-apn.org/
島根動物愛護ネットワークブログ
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有限会社イスコデザインHP
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 猫と織江さんとの出会い

西原さんは湖陵町出身、東京でデザイン専門学校を卒業した。実家が看板屋さん、実家の仕事をしようと思っていた。しかし、デザインの仕事が面白く、そのままデザイン会社に就職した。

その頃、東京都内の一軒家の借家(西原さんが言うにはボロ家)に住んでいた。古いだけに、ネズミが住んでいた。ネズミといえば猫、そんな発想から捨てられた猫をもらって、5匹飼っていた。これが猫との出会い。

また、そのころ動物愛護団体を知り興味を持った。

デザイン会社で印刷物のデザインをしていた西原さん、3年後独立しやがて自分の会社を立ち上げた。その頃から、印刷物よりwebデザインが増えてきた。そして、ホームページ制作の依頼も来るようになり、全面的にweb制作に切り替えた。

同じデザインの仕事をしていた、織江さんとの初対面、2匹の猫を飼っていた織江さんと猫談義で意気投合、やがて結婚した。ここでも、猫がきっかけとなった。

webデザインの仕事は、データーのやり取りなので、東京にいることが重要ではなくなった。西原さんは、知り合いから加茂町に良い家があると紹介された。2006年5月早速、島根にやってきた。すぐに決めた。

埼玉・仙台・東京と生活していた織江さん、島根県に来ることに戸惑いは無かったかと、聞いてみた。

西原さんからの突然の宣言
島根県に行く。
ついてくる? 
いやなら東京にいても良いよ。
時々、来れば良いよ。

織江さん、まあ良いか、いやになったら、戻ってくれば。ついてきた。
それから1年と少し、猫たちの世話にほとんどの時間を費やしている。
幸せそうな笑顔が、答えている。

保護している猫ちゃん
西原さんが自宅で保護している猫ちゃんたち。一刻も早く優しい飼い主さんが現れると良いですね。

猫と住む家

写真上は、雲南市加茂町の西原さんの素敵な自宅。

雲南市加茂町 斐伊川沿いに田舎には珍しい瀟洒な平屋が西原さんと猫たちの家。有名な建築家が設計したそうで、家の前には角材がモニュメントのように立ち並んでいる。

広い敷地には、車にバイクカヤックたくさん置いてある。すべてネットオークションで手に入れたそうだ。たくさんのお客様がいるのかと思った。

隣は古い神社、敷地の隅には蔵、モダンな家とのミスマッチが面白い。東京から昨年4月に引っ越してきた西原さん、この家との出会いが帰郷のきっかけとなった。

この家に西原さん夫妻と9匹の飼い猫、そして保護している子猫達、たくさんの同居人?猫たちと暮らしている。

この家には、猫専用の部屋があった。猫たちの遊び場にも居場所にもなるタワーが2本、トイレにえさ入れ、水と並べてある。
猫たちは、タワーや梁の上様々な場所でくつろいでいた。結構年をとっているせいか、みんな置物のようにじっとしている。

西原さんは、完全室内飼い、避妊・去勢をし命が尽きるまで一緒に暮らすこと、これがポリシーだ。

9匹の猫、皆さんどうですか?
うるさいでしょう、においがひどくないかしら、なんて思いませんか。

猫たちは大人になると、ほとんど泣くことはなく、トイレの始末さえしてあげれば匂いもあまり無いのです。この部屋の猫たちは、自分達は仲間と思っているのか、ほとんど喧嘩もなく、たぶんご近所さんもたくさんの猫たちには気がつかないかも知れない。

 

島根動物愛護ネットワーク

西原さん自宅で保護している生後間もない子猫たち。優しい飼い主が早く見つかればと思います。

西原さんが自宅で保護している生後間もない子猫たち。優しい飼い主が早く見つかればと思います。

生まれたての子猫を見つけた。1匹はカラスについばまれていた、目も見えない小さな猫を連れて帰った。夜中もミルクを飲ませ、世話をした。2日後、手のひらの中で、命は尽きた。

ショックでした。

西原さんは、捨てられる犬や猫の多いことに愕然とする。

島根県に問い合わせた、動物愛護団体の存在を確かめた。何か自分に出来ることはないだろうかと。
島根県には、個人でやっている人はいるらしい、しかしそのような団体は無いとのこと、自分で立ち上げた。

庭の隅に、スチール製の物置がある。
ケージに入った猫たちが、30匹。これから、飼い主を探すのだ。
島根県在住のおばあさんが、飼っていた猫たち、おばあさんが入院し、世話をしてくれる人のいなくなった猫たち、西原さんに依頼が来た。

物置を用意し、ケージもえさもトイレの砂もすべて自費。
この話をwebニュースに書いた。
全国から、様々な支援物資や寄付が届いた。
玄関の脇にはダンボールが積んである、お話を聞いているときも、大分県から餌が宅急便で届いた。
インターネット、たいしたものである。

山陰中央新報の「さんさん」に迷子の犬や猫を探してとの記事が目に付く。
あの「うしこ」はどうしてるかと、私も実は気にしている一人だ。
八雲村の人から、迷子の犬を保護したが、どうしたものかとの問い合わせがあった。西原さんは写真を撮り、記事を書いてチラシを作ってあげた。
「さんさん」に掲載しましょうと提案した。
山陰中央新報へ行った保護者は、そこで偶然、迷子犬を探してとの依頼記事に遭遇した、なんと同じ犬だった。幸運な偶然だった。

西原さんは、犬は登録制度があり、必ず監察札をもらっている。これをちゃんと首輪につけていれば、迷子になっても必ず見つけられる。
そのことを知らない飼い主が多いと話した。

犬は迷子になっても、自力で我が家に帰ってくると思っている飼い主の多いこと。しかし、保健所で殺処分される犬の大半は、迷子犬なのだ。そして、猫の場合は圧倒的に、生まれたての子猫たちだ。

さて、話を30匹の猫たちに戻そう。
これから、猫たちを飼ってくれる人を探す。これには、西原さんの条件がある。

  • 避妊・去勢の手術をすること
  • 完全に家の中で飼うこと
  • 命が尽きるまで面倒を見ること

この3つ、西原さんは家まで行って、確認して引き渡す。

今、島根動物愛護ネットワークは常時参加してくれる人が15人、そして何らかの応援をしてくれる人が60人程度いるそうだ。
皆さん、自分も何か出来ることをやってみたいという人は、ぜひ西原さんに連絡してください。

「ただのいぬ」展

全国各地から届けられたペットフードなどの支援物資。本当にありがとうございます!

全国各地から届けられたペットフードやトイレ用品などの支援物資。本当にありがとうございます!

平成18年度、島根県での犬猫殺処分数は4686匹、減ってはいるが人口比ワースト3位にはいる状況が、ここ数年続いている。

「ただのいぬ」という写真集が角川文庫から出版されている。
写真家服部貴康さんの写真に少し切ない小山奈々子さんの詩が添えられた、小さな文庫本だ。

ただのいぬ」とは「只のいぬ」「無料のいぬ」という意味。保健所に引き取られた犬たちを淡々と撮ったものだ。その先は「命がきえる犬」と「新しい飼い主に抱かれる犬」明暗ははっきりしている。

2005年9月東京世田谷区で「ただのいぬ」写真展が開催され、反響を呼んだ。
西原さんは世田谷区に電話をかけた。そして、写真家服部さんに承諾を得て、2008年3月6日~16日 島根県立美術館ギャラリーで「ただのいぬ」展を開催することとなった。

昨年より、写真家は島根県にきて、「ただのいぬ」の写真を撮りためている。
島根県での開催、やはり島根の「ただのいぬ」を取らねばとの思いだ。
この写真展では見る人たちに「命のたいせつさ」を訴え、感じてもらいたいという。

保健所につれてこられた犬たちは、生か死か、暗闇か光か二つの道に分かれている。しかし、犬たちには行き先を決めることは出来ない、決めるのは人間だ。
そんな現実を展示方法で見せる。
「最初の部屋」「暗闇の部屋」「光の部屋」、見る人に感じてもらう展示だ。

この展示会にあわせ、ぜひ島根県の小学生中学生に見てもらいたいと、子供たちへの開放日を考えている。また、同時に犬や猫の譲渡会やワークショップを開催できたらと、夢を語った。

この展示会の開催費用はおよそ200万円、資金調達のため、募金箱をあちこちに設置、カンパお願い、協力企業探しにと忙しく活動している。
10月第2週に出雲市駅前で行われるイベントに参加し、ドライカレーのお店を出して、資金稼ぎをするのだと、笑っていた。キッチンにはたまねぎがたくさんあった。

展示会の宣伝もかねています。足を運んでみてください。
何でも、東京でよく行ったカレー屋さんの味を再現するのだと、豪語しておりましたよ。

何事も楽しく

『ただのいぬ』展のパンフレット・チラシと写真集

『ただのいぬ』展のパンフレット・チラシと写真集

西原さんと織江さん、わかわかしく明るい、何でも楽しんでしまう。
そんな様子がほほえましく、またうらやましく、輝いている。

最後に西原さんから聞いて、なるほどと思ったことがあった。
保健所に保護され、飼い主が見つからない犬猫は殺処分される。
処分費用はいくらなのだろうか。
きっとかなりの税金が投入されていることだろう。

その費用を、猫や犬の避妊・去勢の補助金に当てたら、年月は必要だろうがやがて、殺処分はなくなるときがやって来る。なるほどでしょう。

夏休みの自由研究に「保健所に保護された犬や猫」について調べてみませんか。とい小さな記事を載せた。
2人の子供たちが興味を持って、連絡してきた。
資料を送り、どこへ行って何を調べるか、アドバイスをした。
二人の自由研究は、先生達を驚かせ、評価してくれたそうだ。
なるほどでしょう。

いろいろなことを、考えるものだと、西原さんの若さとやわらかい頭と心にビックリさせられた。
この次は何を考え出すかと、頭に中をのぞいてみたいと思った。

平成19年9月22日取材