玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】

2009年8月26日
若き兄弟で蔵人となり酒造りを継承、百余年の伝統を支える「玉櫻酒造」
玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】  

今回の元気企業

櫻尾尚平さん(昭和55年生まれ・兄・写真左)
櫻尾圭司さん(昭和61年生まれ・弟・写真右)

会社名 玉櫻酒造有限会社
〒696-0404 島根県邑智郡邑南町原村148
TEL 0855-83-0015 FAX 0855-83-1617
ホームページ  http://www.tamazakura.com/

玉櫻酒造の歴史

島根県邑智郡邑南町。緑豊かな中国山地。
風光明媚な山沿いを旧瑞穂町へ車を走らせると、「清酒 玉櫻」の旗が見えてきた。
大きな杉玉が美しい赤瓦に守られている。
百余年の伝統を誇る「玉櫻酒造」の酒蔵である。

創業は、明治25年。
広島で酒屋を営んでいた初代 逸吾(いつご)氏が、瑞穂町の酒蔵を買い取り、地元の米を使い、地元で消費する酒・・今で言う「地産地消」型の酒造りをこの地で始めた。当時、上撰は八千代、佳撰は白雪の名で売っていた。

戦争によって一時、酒造りを止めざるを得なかったが、昭和22年、島根県内の有志の尽力により、邑智郡内の酒蔵を統一し、邑智酒造有限会社を設立。
二代目 作良(さくりょう)氏が社長となり、全国に先駆けて復活酒屋の第1号となった。

戦後まもなく、物資のない時代ではあったが、その時に造られた酒に「玉のように美しい酒」という希望をこめて「玉櫻」と名づけられた。

「これからの酒は質で勝負する時代になる」という二代目の考えのもと、昭和28年冬から、但馬杜氏を迎えての酒造りがスタート。
昭和30年に邑智酒蔵から玉櫻酒蔵に改名した。

玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】

百余年の伝統感じさせる佇まいの玉櫻酒造

若き杜氏 櫻尾尚平さん

今年(平成21年)の造りから杜氏となった尚平さんは、現在29歳。
昭和55年6月8日。玉櫻酒造を営む櫻尾家の長男として産声を上げた。
しかし、日本酒に全くと言っていいほど興味がなく、高校を卒業後、広島大学理学部で植物の遺伝子について研究していた。
研究熱心な尚平さんは大学でも期待され、研究者としての道に進むことも考えていた。

4回生の時、研究室の先生が日本酒好きで、様々な蔵を見学するうちに自らの遺伝子が目覚めたのか!? 自分の手で酒を造りたい!と思うようになり、大学を卒業後、酒類総合研究所に進んだ。
この研究所が広島大学の隣にあったというから、もしかしたらお酒の神様に導かれていたのかもしれない。

それから1年後。
平成16年4月から玉櫻酒造の蔵人となり、但馬杜氏 中西さんの下で働いた。
尚平さんは、大吟醸は純米のみ、3年前から特定名称酒(吟醸酒、純米酒、本醸造酒)はすべて無ろ過、普通酒も糖類を添加しないなど、信念をもった酒造りを貫いた。
そんな若者の情熱を受け止めた中西杜氏も、また素晴らしい人である。

杜氏となった今年は、伝統的な酒造りの手法である「生酛(きもと)」にも挑戦した。
その姿勢は、先人の思いを確実に受け継いでいると感じられる。

亡き祖父が使っていた「生酛(きもと)」に関する本を熱心に解読する孫の姿を、祖母の道子さんは誇らしげに見つめていた。

玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】

玉櫻酒造 両親、おばあちゃん、兄弟の家族の皆さん

兄弟で酒造り

そんな兄の姿に憧れた弟が、平成20年5月。蔵人として加わった。
弟の圭司さんは昭和61年1月31日生まれの23歳。
高校を卒業後、広島修道大学 商学部に進んだ。

幼い頃から兄のことが大好きで、今でも続けているバスケットボールを始めたきっかけも兄の影響からだった。一度も喧嘩をしたことがないという仲良し兄弟だ。

お酒に関しては全く知識がなかったので、とにかく師匠は兄。

「にーちゃんは、僕が失敗しそうなミスを前もって言ってくれフォローしてくれるし、遠慮なく何でも聞けて、頼りになる。」

「今年は1から10まで、にーちゃんを頼りにしていたが、来年は、にーちゃんに言われなくても、せめて1から5までは出来るようにしたい。」

兄の背中を見ながら日本酒を学んでいきたいという意欲が、キラキラした瞳に映っていた。

玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】

(写真上)玉櫻酒造の仕込水は酒作りに最適な中硬水、淡い水色をしている。
(写真下)玉櫻酒造自信作のお酒たち

兄弟の夢

玉櫻酒造の仕込み水は、まさに「水色」。
中硬水の井戸水で、豊富なミネラルを感じるとともに、すっきり感がある。
この水と、地元で丁寧に作られたお米で造られる玉櫻のお酒は、味わい深い旨口でキレもある。
料理とも合わせやすいし、じっくり語りながら飲んでも美味しい。

「今の時代に合わせながら伝統の味を守っていきたい。自分が納得出来ないものは売りたくない。」と、真剣な眼差しで語る兄、尚平さん。

「お客さんに喜んでもらえる酒を造りたい。夢は、にーちゃんのようになることです!」
と、笑顔で答える弟、圭司さん。
そんな圭司さんは、今年初めて出場した島根県の利き酒大会で7位となり、中国大会にも出場した。


バスケットボールで鍛えた心身で真面目に酒造りに取り組む櫻尾兄弟。
「酒造りのゴールはお客さんの口に入る時。それまでをどう辿るか、考えたらきりがない。」
造った後の保管にも気を配り、旨い酒への探究心は留まることがない。


11月中旬の大安の日から、玉櫻酒造の酒造りが始まる。
「来年の生酛(きもと)は、今年と全然違うものになると思いますよ!」
尚平さんの表情が輝いた。
今年の生酛(きもと)も十分美味しいと感じたのに・・・。
どう期待を裏切ってくれるのだろうか。
想像のつかない美味しさが待っていそうだ。

「兄弟で蔵を盛り上げて、玉櫻に関わっている全ての人。米を作る人から酒販店、料飲店、飲んでくれる人、皆が「よかった」と思ってくれるような酒を造りたい。」
その思いは、人々を魅了する「玉のように美しい酒」をきっと生み出すであろう。

新しい時代を迎えた「玉櫻酒蔵」。
櫻尾兄弟の造り出す来年の酒が待ち遠しい。

玉櫻酒造(島根県邑智郡邑南町)【#連載79】  

(左・兄)櫻尾尚平さん、(右・弟)櫻尾圭司さん

ともに、スポーツマンの若きイケメン蔵人だ!

今回掲載の元気企業データ

法人名 玉櫻酒造有限会社
所在地 〒696-0404 
島根県邑智郡邑南町原村148
創業 明治25年
業務 日本酒製造販売
連絡 TEL 0855-83-0015 
FAX 0855-83-1617
ホームページ http://www.tamazakura.com/

2009年8月22日取材   フリーアナウンサー・きき酒師 石原美和