キンヤ(島根県雲南市)【連載37】
旅行の楽しみって、何ですか?
お宿、温泉、お料理、レジャースポット…。
そして、忘れちゃいけないのが「おみやげ」。私は“絶対”と言っていいほど買って帰ります。
そんなお土産物の流通を一手に引き受けているのが、おみやげ卸の「キンヤ」。
島根県の会社ですが、土産卸業としては中国有数の売上を誇ります。でも、これから注目すべきは「お出かけ産業」だとか。話を聞いてみました。
(取材・文章 高野朋美)
キンヤ=加藤欽也社長
キンヤ本社(島根県雲南市)。
山陰の名湖・宍道湖を背に、国道9号線から山側へしばらく行くと、そこは「雲南」と呼ばれる地方。古代ロマンあふれる山紫水明の地だ。中でも加茂町は、銅鐸が発見された遺跡の里。そんな歴史的なまちに根を下ろしているのが、おみやげ卸業を営む「キンヤ」だ。ちょっと面白い会社名だが、同社の社長、加藤欽也さんと名刺交換して理由が分かった。そう、キンヤとは、社長の名前なのだ。
「会社を始めたころは、とにかくよく動きました。私しか営業に回る者がいませんでしたからね。」と加藤社長は振り返る。
いまでは従業員 24 人を数え、年商8億円の規模にまで成長した。
土産卸の会社に勤めたあと、独立。高速道路のサービスエリアを中心に営業して回った。
「あるとき、得意先のサービスエリアに、もっと品数を増やさせてくれ、頼んだら、週一回しか来ない業者から多く仕入れられない、と言われました。だから、週二回行くようになった。そのうち仕入れの量を増やしてもらえるようになり、ほかのサービスエリアに紹介してもらうようにもなった。そうやって販売エリアを広げていったんです。」
いまでは 20 数店舗のサービスエリアのほか、駅や温泉施設のお土産売場にも、キンヤが卸すお土産物が並んでいる。
キンヤって書いてないけど・・・
ところで、お土産物の「ウラ」を見たことがあるだろうか?賞味期限や原材料、製造者が書かれた「ラベル」のことだ。キンヤには、ラベルに書かれた同社の名前を見て同じお土産商品を注文してくる消費者がかなりいる。それだけキンヤの手がけているおみやげ商品が多いということでもある。
しまねの和牛カレー。すでに山陰名物となるほどのヒット商品に成長しました。
しかしそれだけではない。同社はお土産物を右から左へ流通させているだけでなく、新商品の開発も行っているのだ。
そのひとつが「しまねの和牛カレー」。実に3年の月日をかけて開発した、キンヤ自慢の商品だ。牛の個体番号が書かれているユニークな商品で、個体番号をインターネットで調べると、カレー肉に使われた牛の性別、生まれなどが分かるようになっている。
だがお土産売場で「しまねの和牛カレー」のパッケージをひっくり返し、ラベルを見ても、「キンヤ」の名前はない。製造者欄には、別の会社名が書かれている。このようにお客様と協力して開発し成果を上げている。実はこれが、キンヤが成長したもうひとつの理由だ。
「うちではなく、別の会社のブランドとして販売する手法を取っています。これによって、ずいぶん業績が上がりましたよ。」
和牛カレーは、今年に入ってからの販売商品だが、発売当初から話題になり、すでに山陰名物となるほどのヒット商品になっている。
やっぱり地元が一番
キンヤでは、いま、既存のお土産商品に加え、地元山陰(鳥取県・島根県)の特産品の発掘に努めている。社員が山陰各地を営業で歩く中、様々な商品情報や話題を収集、これをキンヤの販売チャンネルに乗せ、山陰から全国に向けて情報発信、販売展開を図ってゆく。「山陰には全国に誇れる産品がまだまだ埋もれている。安心できる地場産の特産品を発掘、積極的に全国にPRし、少しでも地場産業発展のお役に立てたらと思います。」
地元を積極的に活用するという考えは、何もお土産の開発に限ったことではない。キンヤはこれから、お土産以外の事業も手がけていくというのだ。それは、温浴事業と、観光産業。
温浴事業とは、温浴施設の総合コンサルティング事業のことだ。それにしてもなぜ、土産卸が温浴施設コンサルティングなのか。
「当社では長年、山陰の温泉浴場にもお土産物を卸してきました。その関係で、お得意様より色々なお問合せを受ける機会が多いのです。ですから最近、当社では温浴経営、施設に詳しい人材を採用し、本格的に温浴施設の総合コンサルティングに乗り出す予定です。」
そしてもうひとつ力を入れたいのが、観光産業。加藤社長は、雲南には非常に魅力的な観光資源がたくさんある、と言う。
「吉田村のたたら、木次の桜、そして加茂町の銅鐸…。この地方は、松江や出雲に負けないすばらしい観光名所があります。それをもっと外に向けてアピールして、観光客に来ていただきたいんです。」
加藤社長は、商売柄、全国各地の観光地へ出向くことが多い。各地観光地を見たり、観光関連業者と情報交換するうち、地元に観光客を呼び込む手段がまだまだあることに気づいた。
「例えば加茂町にはいま、観光客に泊まっていただく宿がない。でも、民家を宿泊に利用してもらうという試みを実施している地域が、実際にあるんです。よそでできて、加茂町でできないことはない。そう思っています。」
社員が発信する
キンヤ社内風景。社員一丸となり目標に向かって頑張っています。
キンヤは近々、インターネットショップを開く予定だ。キンヤには月に何件か、「このお土産物がとてもおいしかったから、また買いたい」という消費者からの要望が寄せられる。こうした声に答えるため、そして新たな顧客を獲得するため、ネットで商品を販売していく。 だが、ネットショップは、消費者のためだけに開設するわけではない。社員にとっても、とても意味のあることだという。
統括次長の松浦靖典さんは、こう語る。
「これからは、通り一遍のお土産物は売れなくなると思います。うちでしか買えない、うちでしか扱っていないという商品を、発掘していかなければならない。そのためには、社員の力が必要なんです。社員一人ひとりが、自分の目で選んだ商品を、自信を持ってお客様に紹介していく。そうすることで、商品にも社内にも、今以上の活力が加わると思うんです」。
温泉、観光、そしてお土産。忙しい自分へのごほうびに、現役引退後の楽しみにと、お出かけ産業は、これからももっとニーズが高まっていくことだろう。そのなかできっと、ここでしか味わえない楽しみ、ここでしか買えないお土産を求める傾向が強くなる。そんな近未来に向け、キンヤは、社員の力を十分の引き出しながら、新たな分野に挑戦しようとしている。
今回掲載した企業 データ
社名 |
株式会社 キンヤ |
代表者 |
加藤 欽也 |
設立 |
設立 昭和63年4月 / 創業 昭和54年5月 |
住所 |
島根県雲南市加茂町東谷182番地1 |
TEL |
0854-49-6637 / fax 0854-49-6513 |
資本金 |
3,000万円 |
従業員 |
24名 |
事業 内容 |
観光土産品類の卸売り及び小売 温浴施設総合コンサルティング |
URL |
http://www.kinya.co.jp/ |
2005年10月取材