「えほんやとこちゃん」オーナー 高橋素子さん(鳥取県米子市)【#連載72】
(取材・文章 土山 博子)
【今回の元気人】
高橋素子さん
絵本専門店「えほんやとこちゃん」オーナー ≪おはなしグループ だくちる≫で、読み聞かせのボランティアとしても活躍中
「えほんやとこちゃん」
鳥取県米子市東町71の73
TEL:0859-34-2016
営業日:木、金、土、日(10:30~18:00)
HP:わらう~まん絵本のコーナー
「私だって夢がある」
子育てが一段落したあとに一念発起し、形にした夢はこだわりの本屋さん。
本が大好き。
人が大好き。
だから人生が楽しい。
いつも前向きで元気な高橋さんをたずね、お話を伺った。
人生を変えた「飛行機乗り遅れ事件」
3人のお子さんのお母さんである高橋さんが、子育て真っ最中の時の話。
東京で用事があり、珍しく一人で大都会を散策していた高橋さんの目に留まったのは、山陰ではお目にかかれない絵本専門の本屋さんだった。
現在のようにインターネットで通信販売・・・なんてことのできない時代だ。
気がつくと、心が動かされるままに山ほどの本を購入していた。
でも、あまりの嬉しさに、宅急便で送る、という選択肢を考えつかなかったという高橋さんは、重たい荷物を抱えて走ることもできず、結局乗る予定だった米子行きの飛行機に乗り遅れてしまった。
不幸なことに、その日発の米子便はそれが最後。
仕方なく、出雲空港行きに変更して東京を後にしたのだった。
ご主人に出雲空港まで迎えにきてもらうハメになってしまった高橋さんは、その時すごく損をした気持ちになったという。
「近くにあんな本屋があれば、こんな思いをせずに好きな本が買えるのに・・・」
その時の思いが原動力となり、高橋さんのその後を変えることとなる。
児童書専門店が存在することを知ってから、ありとあらゆる機会にいろいろな書店を見て歩いた。
でも、そんな特殊ともいえる店があるのは、やはり大都会ばかり・・・。
当時の山陰には存在しなかった。
「自分でつくればいいと思ったのよ。なければ自分でつくる。無理だなぁとは思わない。
欲しけりゃ手に入れる・・・」
そう決意したのは、子ども達の手が離れて、自分自身のこれからを考え始めた時期だった。
私だって夢がある・・・
本がいっぱいの店内
もともと石川県出身の高橋さん。
絵本で名高い≪福音館書店≫発祥の地ということもあり、本に親しむには絶好の環境であった。
生まれ育った土地で、数学の先生をしていた高橋さんだったが、長女の出産を機にご主人の実家のある米子に移り住んだ。
教師の仕事は辞めることになり、弁護士であるご主人の仕事を影から支えてきた。
「三歩も四歩も夫の後からついていく・・・そんな感じだったのよ」
子育ても一生懸命やった。
子どもの使うものやおやつも手作りし、その傍ら通信講座で絵本の勉強に励み、そして障害児ボランティアに絵本サークルでの読み聞かせ・・・。
「私、結構エネルギーがあるのよ。身体は丈夫だし、口はたつし・・・。
これを全部子どもに向けたら、子どもがつぶれてしまうな・・・と、ある本を読んで思ったのよ」
高橋さんの傍らにはいつも本があった。
「いろんな本やいろんな人の助けを借りた方が、バランスのいい子育てができるかなって」
いろいろな分野で一生懸命だった高橋さんに、ある想いが生まれた。
もっと人との出会いを大切にして、ゆっくりと生きていきたい・・・。
絵本や童話、大人の本も置いた、女性や子どもが一人でも安心して入れる本屋をつくりた
い。
子連れでもゆっくりと過ごせる本屋。そんな本屋がつくりたい。
そんな想いを文章にして、「私だって夢がある」のタイトルで朝日新聞の投稿欄に投稿した
ら、見事採用。
それを見て驚いたのは、ご主人をはじめとする周りの人々だった。
いろんな人に「こんな夢があるの?」とびっくりされた高橋さん。
「言ってしまった以上、本当につくらなくちゃねぇ」
冒頭で紹介した『飛行機乗り遅れ事件』での経験も手伝い、子育てが一段落した時期に、
ついに「えほんやとこちゃん」を誕生させたのだった。
いろんな人やいろんな本が集まる場所
本がいっぱいの店内
「えほんやとこちゃん」を訪れるのは、もちろん子育て中のお母さん世代が多いのだが、意外にも男性客が多いのに驚いたという高橋さん。
「『ゲド戦記』や『アルプスの少女ハイジ』を好きな男の人って結構多いのよ。
大人が読んでも面白いし、いろんな要素が含まれていて内容もすごい。
でも、やっぱり子どもの本だし、会社なんかでは話せないでしょ?その本について語りたくても語る場所がないからここで朗々と語る人がいるの」
みんな本について喋りたいんだなぁ、と思った。
「いろんな人から、いろんな本の話を聞いて、読んでみたいなぁと思って集めたら、こんなことになっちゃった。わぁ、大変!」
『えほんやとこちゃん』の店内を見回し、高橋さんは顔をほころばせる。
「人が好きで、本が好きだと、意外と人生楽しいわ」
先日行った人間ドック結果が、すべてA判定だったという高橋さん。
「40代の時に胆石をやったの。その時は、ストレスで、身体中病気の巣窟だった」
人間はストレスがたまると、マイナスのエネルギーを自分の身体や精神、もしくは他人に向けてしまう。
他人を傷つけるのは嫌だし、自分の身体や精神を壊すのもつらい。
「どれも嫌だから、対処しなきゃいけない。人間的に解決しなきゃねぇ。
そんなこともいろんな本に書いてあるのよ
本屋をやっていると、本当にいろいろな本が集まってくるの」
「子ども」は、いい本を読んで「人間」になっていく
おしゃべりコーナー
集まってきた本を糧にして、日々の生活を楽しんでいる高橋さんの話を聞いて、忙しさにかまけて最近活字から遠ざかってしまっている我が身を振り返った。
「今のお母さんたちに本をすすめるとね、やっぱり見栄えのいい安い本を買っていくの。
ぱっとみて、絵が多いものとかね。
ロングセラーのいい本を読んでもらうのはなかなか難しい。
でもね、あっという間に子育ての時期は終わってしまうし、一番読みごろの1歳~5歳にしっかりといい本を読んであげて欲しい」
そうですね・・・。本当にそのとおり。
忙しい日々のせいにして、ゆっくりと子どもに本を読んであげることも少なくなったなぁ・・・と反省。
「忙しいから絵本が読めない、なんて言ってたらすぐに過ぎちゃう。
本当に本を読んであげてない人が多いんだよね。
時間がないんです・・・って言い訳する人ばかり・・・。
言い訳するより先に読んであげて欲しいのよ」
子どもたちも楽しいおもちゃコーナーには、木のおもちゃがいっぱい
・・・ますますそのとおり・・・ますます反省。
「10分怒るなら、10分本を読んであげる。家に本がないと本は読めません。
本は腐りません。いい本が一冊あると、おじいちゃんもおばあちゃんもお父さんもみんなで楽しめるでしょ。4人家族なら4通り楽しめる・・・。
だから買って!って言ってるの(笑)商売上手でしょ」
さすが!思わず両手いっぱいに本を買ってしまいそうになりました。
「静かな時間もできるし、子どもはその本をめくってごっこ遊びも楽しめる。
そうやって人間になっていく・・・。
本を読むのは手間ひまかかって時間がかかるっていうけど、一冊で何通りも遊べるから、結局子育てが楽になるのよ」
ちょっぴり辛口だけど、母親のような暖かさと、懐の深さを感じます・・・。
実家に里帰りするような気持ちで、子ども一緒に訪れてみたくなるお店である。
- 遊べる本。
- 楽しい本。
- 美しい本。
- 癒される本。
- 生き方を教えてくれる本。
- 迷ったときに助けてくれる本。
- そして、親子の繋がりを深める本。
そんな本たちが待っていてくれる「えほんやとこちゃん」。
その中心には、いつも高橋さんの素敵な笑顔がある。
今回掲載の元気人データ
高橋素子さん
氏名 | 高橋 素子さん(たかはし もとこ) |
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お店 | 「えほんやとこちゃん」 鳥取県米子市東町71の73 |
電話 | TEL0859-34-2016 |
営業日 | 木、金、土、日 時間10:30~18:00 |
概要 | 店内には、絵本のほかに、おしゃべりできるコーナーや子どもたちのおもちゃコーナー、セルフサービスのお茶コーナーもあります。 山陰の女性サイト「わらうーまん」の「はっぴぃ子育て」には、高橋さんが紹介してくださった絵本のコーナーあり ←クリック |
平成19年4月20日取材